きれいなエンディングなどどこにも無いのにね

「ホワイト、胸がすかすかするんだ。」

全然満たされないんだよ。そう言う彼は遠くを見ていた。それにならうように私も視線を向ける。ここから眺める光景にもとっくに慣れてしまった。お母さんやチェレンにベル達は元気だろうか。私の手はいつも彼に引かれていて、殆どの時間を彼の隣で過ごしている。しかしこの建物は高すぎると思う。余りにも味気ない。眼下に広がる街並みは相も変わらず、ただ雲が流れていくだけだからだ。

(彼は全てを手に入れた、はずだった。)

「それならねえN、外には出ないの?」
「ここが嫌い?」
「嫌いじゃないよ、でもすごくつまらない。それに、それにね。」

私のポケモンたちがいないもの。涙がゆっくりと頬伝い落ちていく。とめどなく溜まり、溢れて衣服を濡らした。触れた柔らかな感触に抱き締められていることを理解する。

「トモダチは人間から解放したんだ。大丈夫だよトモダチの代わりに、ずっとボクが側にいるから。」

ここから広がる外の世界は変わらずポケモンリーグを眼下に置いて、城はその権力を見せつけるようにそびえ立っている。その上に雨雲が空に張り付くように浮かんでいた。彼との戦いは終わり、私は絶望に抱かれ今を生きている。その姿は生きながら死んでゆくようなんだろう。Nはその穴を埋めようと隣に居続ける。だが戦いに勝利し理想郷を作り上げた彼が、ポケモンたちとの繋がりを断たれた私を癒やすことなど出来やしないのだ。それでも彼がここに居続けるのは、彼の自己満足でしかない。

ただただ死んでいく私を彼を愛おしむように抱き締めている。その胸中は差し詰めついに念願の玩具を手に入れた子供のそれと変わらない。もう逃がさないと誇示するその腕から逃れるすべを私は知らない。いずれにしても彼が私の心を手に入れることはない。そして抜け殻だけを彼は大切に抱いては、自分と一つになることを夢見るのだ。


《彼の腕の中に、私は存在しえないまま。》


(N→主♀)
20101007

title:joy



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