お死まい

「ずるい。」

苦悶の表情を浮かべながら少年は掠れた声を上げた。一方少年の上に堂々と座る女は、貼り付けたような笑みを見せた。一見して艶めかしい色香漂う光景だが、女性の白く細い指は少年の首を握っている。咽ぶ少年を尻目にじりじりと締め付けていく。

「だって、仕方ないもの。」

駄々をこねるように女は頭を振る。女の長い髪が当たるのを少年はどこか冷めた眼で眺めていた。少年は俯いた女の頭に腕を伸ばす。その腕にはおびただしい数の鬱血の跡と、手枷がはめられていた。鎖がジャラリと落ちたかと思うと、女に触れようとしていた少年の腕ははたき落とされていた。一瞬少年の瞳が哀しげに揺らいだが、女が気づくまえに奥へと消える。女は憎々しげに睨みつけた。

「そんなまね、しないでよ。また分からなくなるじゃない。」
「今は分かるんだ。」
「ええ、やっぱり私貴方のこと嫌いに違いないわ。」
「嘘つきだね。こんなことをしてるのは嫌いだからじゃないでしょ?」
「……いいえ、嫌い。嫌いなのよ。」

再び少年の首へ手を伸ばす。少年はまるで自ら死を望むように首を差し出す。薄い笑みを浮かべた少年は、そっと首にかかる手に自分の手を重ねた。

「今度はひと思いにしてね。」
「…分かってるわよ。」
「ごめんね。」
「変える気なんかないくせに謝らないで。」

さらに力を込める。少年は耐えきれず口の端から唾液を零した。眼の焦点も合わなくなり視界が霞む中、少年は腕を伸ばす。その手のひらは女の頬を捉えた。触れた手にじわりと濡れた感触が伝わる。

「次はきっと愛してあげるから、姉さん。」

少年が一つ息を吐くと、伸ばされていた腕はあっけなく倒れた。女は愛しい弟《男》の亡骸を抱きしめた。静かに涙をたたえながら、微かに微かに愛の言葉を囁いて。

《私をどうか愛して》

(姉と弟)
20100719

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