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※妙に長いです。


○月×日、今日から日記をつけることにする。医者から言われたからだ。じゃなければ私なんかが自分の過去を振り返るなど、自分の行為を悔いるような日記などつける気も起きない。ただ私は悔いることも出来なさそうだった。医者が言うには私は“記憶喪失”なるものらしい。過去の出来事はおろか、自分の名前さえ分からない。医者や、やってくる人々が呼ぶ名前も、一つとして思い返すものはなかった。…このままで記憶を取り戻せるのだろうか。

○月△日、医者に言って自宅に帰ることにした。勿論見舞いに来ていた友人と思しき人々は心配していた。しかしこれは私の記憶を思い返す上で大事なことのように直感していた。きっと上手くいくはずだ。




×月□日、以前の日記よりかなり日が開いてしまった。これから以後気をつけなければ。家に帰ってから色々なことが思い出された。たまに訪ねてくる友人の顔も朧気な記憶から思い起こすことが出来るようになった。しかし一向に自分の名前が分からない。友人が呼ぶ沢山のあだ名や、医者が事務的に呼んでいた名が自身の名だとは認識してはいるものの、未だ正しいと思えないのだ。いつか思い出されることを願い今夜は眠ろうと思う。

×月○日、今日は珍しい来客があった。真っ白なワンピースを来た長い黒髪の少女が訪ねてきたのだ。少女は私の記憶があったころの教え子らしい。推測するに私は何かの教師をやっていたと言うことだ。朗らかに笑う少女の表情がまだ、脳裏に焼き付いている。また来ると言っていたので、近いうちに部屋を綺麗にしておこう。

×月◇日、気づけばあの黒髪の少女に私は惹かれていた。また来ますと手を振る彼女を見て、何度引き止めたい気持ちを抱いただろうか。けれどこの気持ちは仕舞い込むつもりだ。彼女が私を「先生」と呼ぶ以上、私がこの想いを告げることは許されない。しかし彼女が呼ぶ「先生」と言う言葉だけが、今私と言う存在を表しているように思っている。あの呼び名だけが、私が私であった証明なのだろう。

△月○日、彼女は私の家へやってくるときはいつも白いワンピースを着ている。そのことに気づいたのは、街中で時折見かけたときは違った色をしていたからだ。なんか理由があるからだろうか。とても綺麗な色をしているが、個人的には彼女には赤色が似合うと思う。白色ばかり見ているからだろうか…。

△月□日、昨日彼女に溜まらず思いの丈を告げてしまった。彼女は初めは驚いたように固まっていたが、泣きながら私の胸に飛び込んでくれた。この日ほど幸せな日はないと私は思った。そして昨日は彼女と一夜を過ごした。今は隣でスヤスヤと眠っている。昔の記憶など今は必要無くなっていた。彼女と出会った日から、私は新しい人間として生まれ変わったのだ。こんな日々がずっと続いてほしい…。

△月×日、あの日から彼女が家にこなくなった…。あの夜の行いが悪かったのだろうか。確かに躊躇っていたのを覚えている。けれどかれこれ一週間だ。彼女の連絡先を聞いておくべきだと後悔した。

□月○日、駄目だ。いつまで、いつになったら彼女は来てくれるんだ。ずっとこのまま なのか?




□月◇日、会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい愛たい。愛、会い?




◇月×日、彼女が久しぶりにやって きた。 また白いワンピース だったから。 赤色にしてあげ 動かな い とっても綺麗。








◇月×日、これは日記らしい。そして私は記憶喪失のようだ。そのために“diary”と書かれたこの本を手に取ったのだが、前のページはすべて破り取られていた。私は現在恐怖でいっぱいだ。目の前に見知らぬ女性の死体が横たわっているためだろうか。女性は胸を刺され死んでいる。場所が場所な為にすぐには絶命出来ず、苦しみにもがきながら死んでいったのだろう。しかし不謹慎ながらその女性の死体は美しかった。思わずため息が出た。私の恐怖心はこの死体の存在ではなく、自分の恋慕にも似た死体に対する感情であることに気づいた。私は記憶を失う前から死体に性的興奮を覚えるような人間だったのだろうか。今は分からない。今日はこの死体。いや、彼女に寄り添って眠ることにした。外に出るのは怪しまれそうなのでしばらくは止めることにする。

◇月☆日、ああ何てことだろうか!!私はゴミ箱の中から以前記載したのだろう日記を発見した!!徐々に自身が壊れゆく様を知ってしまった!!この目の前にいる女性を私が殺したのだ!!しかも最愛の人を、だ…。身勝手な感情により狂った自分がとてつもなく恨めしかった。再び記憶を無くした今でも私は彼女を愛していると言うのに…。私という男は、なんと馬鹿な男だったのだろうか…。

◇月☆日追記、私は死の覚悟を決めた。彼女が遺した手紙を読んだからだ。彼女は私にこの手紙を渡しにきたようだった。今思い出される彼女は確かに口下手だった、なので彼女なりに文にしたためたのだろう。そして彼女がいつも白いワンピースを着ていたのは、いつの日だったか私が似合ってると言ったからだった。純朴な彼女らしい。そして知ってしまった。彼女は私に会いに来なかったのではなく、会いに来れなかったからだった。あの日の帰り彼女は交通事故にあい、意識不明の重態だった。そのことを目覚めた後に手紙に書き続けるも、私に届けるには至らなかったらしく、全快したのち私に渡しに来たのだ。手紙にはこうとも書いてあった。私の子を身ごもっていたと。私は泣き崩れた。もう戻れはしない。明日彼女と産まれることも出来なかった子供に会いにいこう。彼女の亡骸は白い骨に成りつつあった。この日記も、もう必要ないだろう。いっそ燃やしてしまおう。私の過去の過ちに対する一つの償いとして。待ってておくれ、2人とも。私もすぐにいくよ。






とある山間の中に佇む小さな家。その中で一人の男が目を覚ました。足元には白骨、そして手には包丁を握りしめていた。男は骨を見下ろし、綺麗な“女性”だと思いながら、口を開いた。


《私は一体誰だろうか》


(記憶喪失を繰り返す男×黒髪の少女)
20110126




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