闇に穢れる聖夜

地面が擦れる音がする。ずりずりと何か重いものを運んでいるようだ。なんだろうとぼんやりと視線を巡らせる。黒いコートに身を包んだ男が、同じように闇を纏う黒い棺を引きずっている。棺は光を返さないようで、ぼんやりと明るいこの地面との対比で判るような代物だった。その男の元へ走り寄り、呼び止めた。

「あんたはどこに向かってるんだ?」

男はつい、と指先を前に示す。男が指した先はまた暗闇しかなく。はて、またあんな光の見えない場所へ何用があるというのか。再び問えば、棺を届けると言うのだ。そう言う男は妙に急いていて、鬱陶しげにオレを押しのけまた進もうとする。ずりずりと引きずっている棺の音がドンドン大きくなっていく。音が響き頭がグラグラと揺れる。アレを先に進めては行けないとふいに気づく。振り向けば男はずっと先に進んでいた。見るからに巨大で重たそうな棺を連れて、どうしてもうあんな所まで歩いたのだろうか。いけない、そう口から零れた一言が闇に吸い込まれて。地面を擦る音と、男の高笑いだけが響いてくる。駄目だ、駄目だ、駄目だ。あの先に光など届いていないのに。棺の蓋がずるりと落ちる。ああ、アレはあの中身は、

「オレじゃないか。」

上半身だけを起こしたオレの亡骸が、憎々しげにオレを見る。もう遅いと、お前はもう戻れやしないと。亡骸からの地を這うような声が届くと、男の高笑いも、棺が地面を削る音もぷつりと途切れた。視界が闇に塗りつぶされていく。闇の端に灯りが見えて、幸せそうな家が見える。窓から零れた暖かな光が瞳に差す前に、全てが消えた。


メリーメリークリスマス、聖夜に不幸を振りまいて。黒いサンタは闇と行く。惑い彷徨える子等の魂を引き裂いて。


《それは死神と人は呼ぶ》


(黒いサンタクロースと聖夜に死に逝く男)
20101219




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