贖罪者は赦しを請わず

流れていく血が自分のモノであることは知っている。けれど止めようなんて考えは、これっぽっちも頭にない。只々血管から傷口へと血液が流れていく感覚に、神経を研ぎ澄ませていた。少しずつ命がすり減っていく。意識が朦朧とし、立っていた筈の身体は床にずるずる沈んだ。血でぬかるんだ平面に不意に映ったのは、愛しいお嬢さんの恐怖に歪む顔。駆け寄ったその少女の手によって、命を零していた傷口は丁寧に止血された。じくじくと痛む包帯の下に巻かれた手首に、“生”を実感する。少女の方へ顔を向けると涙で濡れた頬が、自分の頬と重なっていた。

「良かった…あのまま死んじゃうかと思った…。」
「すまない、レベッカ。」
「いいよ、でも気を付けて。今月に入ってもう三度目。」
「もう年だな。」
「冗談なんかじゃないのよ?」
「分かった、気をつけるから。」

レベッカは拗ねたような素振りを見せたが、すぐにその細腕の中にオレを抱きしめた。未だ瞳は不安と心配で揺らいでいる。心なしか震えているようにも感じた。大丈夫だからと耳で囁けば、また泣き出してしまった。可愛らしいまだ年端もいかぬ少女。けれど聡明な彼女でもきっと気づかないだろう。その愛しい彼女がオレを失う恐怖に苛まれる姿が見たいが為に、わざと自身を傷つけていることに。きっとまた近いうちにオレは血を流す。その時あの少女はどんな姿を見せてくれるのだろうか。こんなオレをまだ必要としてくれるだろうか。


《こうするしかオレは存在意義を測れない。》


(未だ自分が赦せないビリー×生きる判断基準されるレベッカ)
20101212




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