確かに積もりゆく

私、レベッカ・チェンバースはとても迷っている。いや、正しくは迷っていることに戸惑っている。ブラボーチーム隊長エンリコより無線が入り、死刑囚ビリー・コーエンの発見の有無を問われていたからだ。何も迷う必要は無いはずだった。何故なら幻想でも幻覚でもなく、確固たる姿で彼は私の目の前にいるからだ。しかし任務前には知る由もなかった真実を知った私は、このまま彼の存在を伝えてもよいのかと迷ってしまった。自分の良心からくる迷いより、遥かに情による迷いも強かったからだ。彼はついに諦めたように視線を地面に落とした。その姿を見た私は、意を決し口を開いた。

「…まだ発見出来てません。引き続き捜索します。」
「…そうか、くれぐれも気をつけろ。」

無線が終了する。ビリーは何故だと言うような目を私に向けた。

「早速経歴に傷がついちゃった。」

ふふっと笑いかけると適わないとばかりにビリーは肩を落とした。しばらく沈黙を保つと、彼は再びこちらを見据え、口角を柔らかく上げてみせた。

「責任取って一緒に逃げるか、お嬢さん?」

突然の誘いに分かりやすく狼狽えてしまった私を見て、ビリーはカラカラと笑った。お腹も抱えて笑いだしたので冗談を言うなと怒ると、ふっと真剣な表情になる。密かに見せるその闇を纏った瞳が、どうしようもなく惹きつけられた。彼と行動しようと思った要因はそこにあるのだと思う。ふいに彼の手を取る。そして仕返しのように言った。

「本当に責任取ってくれるの?」

ビリーはポカンと呆然としたかと思うと、声にならない声を口から吐き出し座り込んだ。その後小さく呟いた言葉を確かに私は耳に捕らえて、二人揃ってへたり込んでしまった。仕返しのつもりに言っただけだったのだが。本当にこの感情は両者ともに手に余る。


《連れていってやるさ、何処へだって。》


(ビリー→←レベッカ)
20101208




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