その瞳は光を喰らわん

“無慈悲の血を流す脈”のたぶん続き


ミシミシと骨が軋む音が耳に響く。くぐもった呻き声しか上げられない自分が悔しかった。何も分からないままに攫われ今に至る。私の上に跨ぐように覆い被さっている青年の眼が、夜の海のように真っ暗だった。どこまで落ちていっても底がないように見えて、その視線が私を捉える度に恐ろしく感じた。このまま沈んでしまってはいけないと理解していても、動物達のように抗う牙も爪もなく、ただ貪られていく。

(この人は、動物たちと同じだ。いいえ、それ以上に…。)

涙で視界が滲んでも自然と自分の上擦る声が鼓膜を犯していく。私の身体を滑るように這う手の平がもどかしい。この異様さが彼を一際恐ろしくさせているのだろうか。面白いとばかりに眼は綺麗に細められているにも関わらず、その瞳は未だ暗闇を携えていた。その姿に怯える子供を重ねてしまう。

「…館長さん。」

ふと伸ばされた腕に館長さんは目を丸くしていた。けれどすぐにいつもの気怠げで虚ろな瞳に戻る。伸ばした腕を頬に添える。少し怪訝な顔をされたけれど振り払われる心配はなさそうだった。

「アナタは可哀想です。」
「…当たり前だろう、化け物にされたんだからな。」
「違います。それは園長も同じです。でもアナタは自ら孤独を歩いてる。」

館長さんは眉を潜めると私の髪を引き上げた。私を睨むその眼は世界に失望しているようで、この人から逃れられないと本能が告げていた。それでも応えるように強く視線を返す。館長さんは“ふん”と小さく鼻で笑い、そしてそのまま首元に噛みついた。軽くではあるが鯨である彼の歯が刺さり、血が伝う。じくじくと中を抉られているようで痛い。流れた血を啜ってみせた後、私は放り出されるように解放された。

「…興醒めだ。明日また生意気な口なんて叩いたら、その喉笛引きちぎってやるよ。」

重たい扉が閉まり、施錠がされる音が届く。高い足音が遠ざかってから、私は大きく安堵の息を吐いた。無造作に引き剥がされたシャツは、無惨にも布切れになってしまっている。彼の行動動機は確実に園長への鬱憤を私に当てつけただけなんだろう。それだけだったのに、その目の奥に見えた憎悪と孤独がまた、私を縛りつける。そしてゆっくりと捕らえられていく。捕食者の視線は未だ脳裏に張り付いたまま。


《その瞳は光を喰らわん。》


(伊佐奈→華)
20101106




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