無慈悲の血を流す脈

地に伏す魚共を眺めていると、優越感が俺の胃を膨らませていく。しかしざらりと触れた顔の左半分は、呪いがじっとりと息づいていた。その手触りが、存在が、余りに気持ち悪く感じて。会議室に集まった魚共全員を蹴散らした。小さく嗚咽が零れて、たまらず胃に満ちていた優越感諸共吐き出した。吐瀉物が水の流れに従って上へ上へと上っていく。それをゆっくり目で追う。醜い自分の姿を顕しているようでまた吐き気がした。辺りから鋭い視線を感じつつ、水槽内をぐるりと見渡し退出した。オレの背中に食らいつきたいと言うように、サカマタの視線だけが最後まで剥がれなかった。


自室の扉をワザと強く閉めると、ベッドに横たわっていた生き物がピクリと跳ねた。近づけば捕らえたときと同じように怯え、後ずさっていく。逃げないように腕を掴めば、痛みにソレは顔を歪めた。細い腕だ。軽く掴もうとしただけでこれなのだから。長らく人間を相手にしてなかったせいだろう。どれほど人が脆いかを忘れていた。

「…華、こちらを見ろ。」
「逢魔ヶ刻に帰してください。」
「その話はもう済んだ。これからはお前はオレの下で働け。」

口から否定の言葉を出させる前に顎を包むように閉ざさせた。じりじりと距離を詰め、お互いの鼻が触れる程に近づく。黒で塗りつぶされた瞳が陰りを帯びる。その様子が酷く愉快で、遊ぶように髪に指を絡めた。わざと目を細めて見せると、女はふるふると小さく首を振った。この人間を手中に収めさえすれば、きっと空腹が癒える。オレとあの兎男との違いはきっとそこにあるのだ。もうすぐこの化け物の身体と別れられると考えると、身体が震えた。女の胸元の居座るボタンに手を掛けると、女は信じられないと言う目をオレに向ける。魚共を蹴散らしたとき以上のものが胃を満たし、肺を満たし、脳を満たした。あと一息なのだ。

「さあ食事を始めようか、人間。」


《お前を暴いて中から崩してあげよう。》


(伊佐奈→華)
20101105


title:snob pool



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