横恋慕 双子の兄貴は付き合っている。 男と。 俺がすきな奴と。 俺たちは似ている。 本当に。 でも違う。 色で言えば俺は黒。 兄貴は白。 全く正反対な俺たち。 何をどう間違えたんだろう。 俺は今、兄貴の彼氏。 つまり俺のすきな奴とデートをしている。 「映画、面白かったか?恋斗(れんと)」 恋斗......。 兄貴の名前。 すきな奴の口からは俺の名前なんて出てくるはずも無い。 「うん....」 公園。 よく来るんだろうか。 慣れた様子で小道を進む。 その先はもう家。 日は傾き薄暗い。 帰りたくない。 「じゃぁね」 ニコリと微笑みかけられた俺は赤らんだ。 キスしたい。 唐突に、いや、前から思っていた事だ。 当然だろう。 奴は俺のキスを拒むどころか待つ。 あぁ、あと少し。 微かな息が皮膚を掠めた。 「.......ストップ。やめようか、慕斗(しおと)」 え。 気付かれ、てた。 「いつ、気付いた?」 「ピアス、増やしたんだね」 心臓が、ぐっと縮んだ。 締め付けられた。 俺を、見てくれていた。 「慕斗が良ければ、僕と付き合う?」 兄貴への罪悪感とおれ自身への羞恥心に俯いていた俺は面を上げた。 「けど、恋斗の次でいいなら」 「次でもいい」 「そっか」 奴はさっき俺がしたように、けれど少し高い所から唇を寄せた。 気持ちよかった。 こんなに気持ちがいいキスは初めてだった。 これが、恋なんだって、思った。 「お前、横島と付き合ってるのか?」 嫌に剣幕な面持ちで帰って来たなとは思った。 が、その原因がそれとは気付くはずも無い。 「わ、わりぃかよ」 また現れる罪悪感。 それに恐怖が山盛りに積もる。 「おまっ.....」 ピリリ...と兄貴の携帯の電子音が響く。 助かった。 心底思った。 けれどそんな感情は兄貴の死んだような顔と半乱狂な声で消え去った。 死んだんだそうだ。 横島が。 不幸な交通事故。 事故前に送っただろうメールが俺の携帯に記録されていた。 「今から公園に来て」 あぁ。 なんてことを俺はしたんだ。 奴が事故ったのは公園から俺ん家に向かう途中の道だったそうだ。 きっと、俺が来なかったから......。 ガチャ。 携帯を震える手で必死に握った。 ただただ横島の事を考えていた。 だから兄貴がそこにいることは話すまで気付かなかった。 「なぁ、俺しにたいんだけど.....お前も、来るか」 なんでそんな事。って思った。 けど、俺なりに考えた。 兄貴も、俺のことを気遣っているんじゃないかと。 お前も横島をすきなら、一緒に死ねと。 「行く」 「次こそ、1つになって生まれようぜ」 兄貴の言葉は俺の心臓をぐっと絞めた。 たのむ横島。 俺と兄貴を、1つに愛してくれ.......。 「......え、....なん、で」 「や、やっぱ駄目だって兄貴!!よこ...横島が....よろこばねぇよ...」 繋いだ兄貴の手が震えるのが虚しくて。 死んだように俺を見ないその瞳が恐ろしかった。 だから、俺は兄貴を抱いて必死に泳いだ。 なんて事したんだろう。 でも、 「兄貴だって、......俺だって、まだ若いし....幾らでも出会いあるし....」 何言ってるか自分でも分からない。 「.....そうだな、ごめん慕斗。頭冷えたわ」 「かえろ....」 「あぁ」 盗みは駄目だよ。 バッドも駄目だよ。 戻る |