あたしが殺した月曜日


「しにたい」
ぽつりと彼女がつぶやいた。力なく座り込んで、ひざに顔を埋めながら彼女は言葉をこぼしていく。
「しにたい、でもこわいの」
かわいそうに、あたしはそう思った。本当にしにたいと思っているくせに実際にしのうと行動することがたまらなく恐ろしいという彼女が、たまらなくかわいそうで哀れだと思った。
うずくまってただ惰性に息を吸って、しにたいとつぶやく彼女にあたしは思わずこう提案した。
「それじゃあ、」
「わたしがおまえを殺してあげる」

************

月曜日とはなんとも体が重くなる曜日である。週の始まりというのは何事に対しても心機一転、清清しい気持ちでこれから始まる七日間をすごすものだろうに、あたしの体は行きたくもない学校に行かなければならないという現実のせいでうんざりするほど重苦しい倦怠感で包まれている。目先に見えている教室に向けて歩む足のなんと重いことか。

「やっぱりめんどくさいな、人間って」

教室のドアを引きながら、あたしの中の倦怠感に向けてぽつりとつぶやく。
ドアの向こうの景色はいつもどおりのなんの変わりもない有様で、教室を満たしている静けさはまるであたしに向かってざまぁみろとでも言っているみたいだった。

使えないものを全部すてて空っぽになった鞄を机に引っ掛けて、そのまま机に頭を抱えてうつぶせた。クラスメイトの雑音もこれから始まるつまらない授業も、なにもかも面倒くさい。耳をふさぐように頭を抱えなおして目をつぶる。やっぱりめんどくさいな、人間は。



不意に、空腹と雑音で目が覚めた。顔を上げると楽しそうに机をくっつけてお弁当を頬張るクラスメイトが目に入った。ああ、なんだもうお昼休みの時間なのか。
午前中をまるまる睡眠に費やしたことで凝り固まった体を伸ばしながら立ち上がって教室をでる。おなかは減ったけれども弁当も財布も持ってきていないので、空腹を紛らわすついでに散歩でもしようと思う。どこに行こうか、と空っぽの頭に質問を投げると、空が見たいような気がしてきた。そうだ、屋上にいこう。あそこが一番空に近い。

ふらふらと歩いて階段を登って、屋上の扉に手をかける。立ち入り禁止、というプレートが申し訳なさそうに引っかかっているだけのドアには鍵はかかっておらず、さび付いた音を立てながらドアは口を開いた。

「そこは立ち入り禁止だよ、みょうじさん」
「……だれ、君?」
「…………寝ぼけてるの?クラスメイトに向かって誰だなんてひどいな」

ふらふらと腹が立つほど明るい空にに目を細めながら屋上に足を踏み入れると、不意に声をかけられた。いい気分だったところを邪魔されて、思わず不機嫌な声でそういうと、後ろ手に扉を閉めながら、自称クラスメイトは困惑した顔でそう言った。ああしまった、やらかした。クラスメイトの視線でひやりと冷えた背筋をごまかすために空っぽの頭を回転させる。ちりじりになっている記憶の紐をひっぱると、ぼんやりとしたいつかの記憶が引っ張りだされた。ああそうだ、私は彼のことを知っている。

「……そうかも、さっき起きたばっかりだからかな?ごめんね、カゲヤマくん」
「ならいいけど……らくしないな、みょうじさんは授業を堂々とサボったり、立ち入り禁止の場所に入るだなんて」
「たまたまだよ、たまたまそういう気分なっただけだよ」
「まるで、人が変わったみたいだね」

へらりと笑った口元が、カゲヤマくんの視線を受けてぴくりと動く。屋上のど真ん中につったっている私に向かって、彼が一歩足を踏み出す音がやけに響いて聞こえた。

「あはは……面白い冗談だね、センスあるよカゲヤマくん」
「その言葉そっくりそのまま返すよ、みょうじさん」

す、と真っ黒な瞳があたしの顔を見つめる。カゲヤマくんは手を伸ばせばとどくであろう距離まであたし近寄ると、にこりと口角を吊り上げた。

「それにカゲヤマくんだなんて、いつもみたいにシゲオってよんでよ」
「……そうだねごめんシゲオ、他人行儀だったかも、あたしまだ寝ぼけて」
「引っかかったな」
「っ!」

取り繕うようにひらひらと笑いながら振った手首をつかまれる。そのままの勢いでカゲヤマくんはあたしの顔に顔を近づけて確信したようにつぶやいた。

「僕の名前は律だよ、#mane1#さん……いや、違うか」
「…………」
「おまえは誰だ」

至近距離で移る黒い瞳は猜疑心がありありと映っていて、ああこれは本当に下手を打ったと心の中で嘆く。これからどうしようかと空っぽの頭で考えながら、へらりと笑って彼の問いかけに答えた。

「さぁ?あたしはただの悪霊だよ」





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