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【Write:ソラさん】
(諸事情によりすっちゃんはパス)
翌日、ウィルは教室への廊下を一人でてくてくと歩いていた。
一人になってから、僅かな不安が湧き上がる。
母国で受けてきたあまりいいとは言えない扱いが頭を掠め、いつもの癖で頭に手をやった。
しかし、そこにはいつもの帽子はない。
日本の校則では、帽子を被ってきてはいけないらしい。
制服も堅苦しいし、日本はなんて厳しいんだ。
そんなことを考えながら、またいつジュースをかけられるだろうかとウィルの視線は徐々に下がっていく。
それと同時に、わくわくしている自分もいた。
彼らは、今日は何をするのだろう。
そう思うと、自然に俯いていた顔が上がる。
いつの間にか、教室の前だった。
深呼吸を一つし、ウィルはがらっと教室の扉を開ける。
「あっ、ウィル来た!」
「おはようウィリアムくん」
「おっはー」
「ウィルくんおはよ!」
ウィルの顔を見るなり、例の美術部メンバーはぱあっと表情を明るくさせて大きく手を振った。
肩に力が入っていたウィルは息をつき、笑みを浮かべる。
「あ、ウィリアムくんおはよー」
「っ!? お、おはよぅ……」
「よっす」
彼らの元へ歩み寄ろうとしたウィルに、クラスの人たちから次々と挨拶が飛んできた。
母国ではまずなかった状況に、ウィルは戸惑う。
それでも、きちんと挨拶を返した。
「ウィルくん人気だねぇ」
「格好いいもんね」
すっかり友人となった卓弥たちの元へ行くと、霞がニヤニヤしながらウィルを見る。
卓弥も頷いて同意を示し、そんな二人をウィルは不思議そうな目で見つめた。
「格好いい……? 僕が?」
「そうだよ!」
「そんな……ぼ、僕は格好よくなんかないよ。暗いし、取り柄も何もないし……それにぶみゃっ!?」
更に言葉を紡ごうとしたウィルに、千尋の腕が伸びる。
千尋はウィルの頬を両手でつまむと、そのままぐいっと横に引っ張った。
彼の顔は、不機嫌そうに見える。
「ひ、ひひほふん?」
「ウィル、あんまり自分を卑下すると怒るぞ俺」
ぱちくりと、ウィルは目を瞬かせた。
ウィルの頬から手を離し、千尋は柔らかく笑いかける。
「俺たちは、友達になりたいから友達になったんだ。暗いだとかなんだとか、知らないよ」
唖然とした表情で、ウィルは千尋を見つめた。
やがて言葉を飲み込むと、ふわりと小さな笑みを浮かべる。
「……そっか」
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