リレー小説 | ナノ


  08



【Write:すう】


「・・・あの、僕達見学してるんです」

ウィリアムがおずおずと答えた。その後ろから小走りで近づいてきたギルバートが「俺も」と手をあげる。

「見学か?珍しいな・・・どうせまた、コイツらが無理矢理連れてきでもしたんだろ、すまんな」

慎ちゃんと呼ばれた男は申し訳なさそうに頭をかいた。ウィルがとんでもない!と首を振っていると後ろからギルが顔を出して呑気に笑った。

「俺らが好き好んでここにいるんだ。もちろん、拉致られちゃいないよ。大丈夫だぜ、先輩」

おどけながら言ったギルの言葉にワイワイと賑やかだった教室がシンと静まりかえった。目の前の男も苦笑のまま、顔も体も固まったように動かない。

「・・・あれ?」

気まずい雰囲気の中、ウィルとギルは顔を見合わせた。

「・・・なぁ、確か日本での常識では上の学年の奴を先輩って呼ぶんだろ?俺、間違ったか?」

「バカ、そういうときは敬語も使うんだよ。ほら、きっとリーダーとかじゃないかな。なんか持ってるし」

「ほんとかよ、敬語か・・・あまり得意じゃないんだよな・・・日本の制度はかったるいな・・・」

「お前はそういうこと言って・・・いや、ともかく、そうとうタブーだったみたいだよ・・・どうしよう・・・僕後ろ振り向けない・・・」

「げ、原因は俺だ。なんとか・・・なんとかしてみせるさ。大丈夫だ、ティーン夫人より怖くない、たぶん」

「すごく真剣に話し合っているところ悪いんだけどね、二人とも、」

「「うおわっ!?」」

ヒソヒソと隠れて話し合っている二人の間に、卓弥がヒョッコリと顔を出した。

「た、卓弥くん・・・」

突然のことにサッとウィルは青い顔で呟いた。ギルも珍しく慌てている。
後ろからは気のせいか、誰かが笑いをこらえるような声がした。

「すごくおも・・・いや、申し訳ないんだけどね」

コホンと咳を一つつくと、傍らに固まっている男を中野原と一緒に、ズルズルと引きずるように引っ張り、座り込んで肩を震わせる千尋と拓海、それを慌てながらなだめる恵、イマイチ状況のつかめていない霞の前に移動させる。そして、もはや生きる石像と化していそうな男の耳元でパンパンッと手を叩いて「慎ちゃん!気をしっかり!」と叫んだ。

「ひ・・ひとまずあれだね。いちおう部長だし、ぼくから言ったほうがいいのかな?」

立ち上がった拓海がそろそろと出てきて、生きる(以下略)に手を向けた。コホンと咳を一つつく。

「えーっと、この方が、この美術部の"顧問"である、藤崎 慎先生だよ。」

「・・・美術部の、顧問・・・?」

ウィルとギルがポカンとした顔で呟くと、後ろで千尋がまた吹き出した。卓弥がすかさず叩き、パコーンと意気の良い音が教室にこだまする。

「えっみえな…「おいッ!」

沈黙の中、思わず不吉な事をいいかけたウィルの口をギルが慌てて塞いで「スミマセン!!」と叫んだ。
拓海はあははと苦笑いを漏らす。

「そう、先輩じゃなくて先生かな。あ、えっと一応ぼくが、この部のリーダー、もとい部長だよ。」

拓海がそう言って笑い、隣の藤崎の肩を「おーい」と言いながら叩く。やっと我に返った生きる(以下略)は複雑な表情でウィルとギルに顔を向けた。

「あ・・・ああ。美術部顧問の、藤崎慎だ。担当は美術。・・・職員室で一度、会ってるはずなんだけどな」

乾いた笑いを漏らすと深いため息をついた。まるで、徹夜続きのサラリーマンのようだと思う。
すると、霞が「そっか!」と手を叩いた。

「ギルくんが間違えた理由分かったよ!」

「はい?」

「背丈だアタァッ」

藤崎は手にしていたファイルでパコンと霞の頭を叩いた。小さな悲鳴が上がるが藤崎は構わず、話を続けようと口を開いた。

「・・・・まあ、なんだ。百歩譲ってそう見えてしまったのは仕方がない。そう、遺伝子の違いがあるように、誰にでも勘違いってあるもんな。きっと厚底なんだよな、靴が。」

「慎ちゃん気をしっかり、言葉が混乱してるよ」

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