2022/10/20(Thu)
「あなたがすき」海賊(ゴム鰐)
※仲間if/死ネタ

こんなに穏やかな場所なぞ想像した事もなかった。

揺れる船の一室、先程まで船員全員がベットの側にいたが今は船長と真っ白なベッドに寝そべるクロコダイルだけだった。指輪をつけていないクロコダイルの右手にルフィの左腕が絡まる。いつの間にこんなに逞しく、そして同じ大きさになっていたのだろう。船に乗った当初は少年から出てはいたがそれでも名残が残っていた。今ではクソガキだとは言えなくなったと、ゆるり笑みが溢れる。
「何が、おかしいんだよ」
静かな声音は落ち着いて聞こえるが、裏にある激情がわかる程度に時間を過ごした。長生きしたいなぞ思ったことはない、寧ろこれでも長くこの海にいた方だろう。それも偉大なる航海の海の上でなんて上等な。サラサラとしたシーツは肌触りが良く、騒ぎながら狙撃手や船医、偶に剣士とコックも混ざって目の前の船長と洗濯していた物だと思い出す。その馬鹿騒ぎを航海士や学者、船大工と共に眺めて…音楽家が陽気な音を流す。陽の下でキラキラと輝く男は幾つになっても眩しかった。
「海、が…みてぇ」「明日も見ればいいだろ」
分かっていないな。今がいいんだと上半身をゆっくりと持ち上げると背中と膝に手を入れられ、横抱きで抱え上げられた。腕の中は暖かく心地が良いので、ほせぇよ…と呟いたルフィの言葉は聞き流してやった。扉の向こうは一瞬の眩しさに目が潰されるが、その青さに目を奪われる。天気は良好、海の海流も穏やかで航海するには最適な最高の日だ。鰐、と呼ばれて視線を上に上げると青い空とルフィがクロコダイルの眼に入る。あぁ、…もう、クソッタレと内心で吐き捨てる。
「情けねぇ、面ぁ…してんじゃねぇ」「なら、ちゃんと元気になれよ」「…くそがき」
大人になったと思ったがそうでもないらしい。ゆるりと右手を伸ばして目元にある傷に触れた。すり、と擦り寄る姿にじわり、暖かくなる。そしてそんな自信に随分丸くなった物だと笑みが浮かぶ。釣られてルフィも笑った。苦いものも楽しさも寂しさも嬉しさも知った…別れも経験した大人のものだ。
「まぶ、しい」
それでも、変わらない笑み見て観念した。忌々しかった、愚かしい程真っ直ぐな瞳が嫌で堪らなかった。それが気にならなくなったのはいつだったか。それでも認めてなるものかと…思って、いた時点で負けだったなとクロコダイルは今更気付いた。ルフィとその背後にある晴天と美しい海。最高だなと、吐息と共に吐き出せば、重い瞼を閉じる間際に唇に灼熱が押し当てられた気がした。


両手を上げて敗北宣言。
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