2022/12/22(Thu)
「氷の指が融けるまで」海賊(赤青)
 ケホ、朧げな意識の中乾いた音が耳につく。数度続く音が鬱陶しく感じるが、其れは己の喉から出ているのかと気がついた。ぼんやりと視界に移るは自宅の天井。何故寝たままなのか、今はいつで何もしていたのか。喉の違和感に顔を顰め、もう一度吐き出された咳と共に寝る前の事が思い出される。数日前から立て続けに大将が出る規模の任務が続いていた。サカズキだけでなく、同僚である年上の同期と後輩であった大将も慌ただしくしていた。どこかの地方ではこの時期は
師走と呼ばれて、正に走るが如く年の瀬まで日々が過ぎると誰かが雑談で呟いていた。決済書類やら年が変わると言う事でいつもよりも締め切りも早まり、本当に息を吐く暇もなかった。普段サボりがちなクザンでさえ抜け出す事なく仕事をしていた。そんな折に任務に就いた島で、さあ帰るぞと言う時に大寒波がサカズキ達に襲いかかった。地元民によれば数年に一度あるかないかと言う大雪で、帰るに帰れず、あまりに積もり民家が埋もれるという被害が出た為、サカズキ達は総出で雪の除雪作業を行った。やっと帰れた時には部下は数人寒さに倒れて、残った者達で倍になった報告書やらで徹夜した。漸く落ち着き、数週間振りの家に就いた後の記憶が無い。「起きた?」カラリ、襖の向こうに盆を持ったクザンが居た。「…なんでおるんじゃ」「嘘だろ?…まぁ、あれだその…いいだろ別に」布団のそばにきてサカズキの額にヒヤリとした掌が当てられる。熱いな、と溢れる言葉に漸くサカズキは風邪を引いたのだと理解した。した途端身体がとてつもなく重くなった。「情けなぁ」「俺は楽しいけどな」カラカラ笑う恋人をギロリと睨むが、益々目を三日月型にされた。額に当てられていた掌が離されるが、咄嗟にその手を掴んでしまう。己の無自覚な行動に目を丸くするが、目の前のクザンも驚いている。思った以上に弱っている自身に情けなくなる。顔を顰め手を離すサカズキにクザンは遂に吹き出して腹を抱えて笑い出した。「お前さんを可愛いなんて、思う日が来ると思ってなかったよ」「うっさいわ。気の迷いじゃアホタレ」「是非偶には気の迷いを起こしてよ」「お前だけには、二度と見せん」「なんでよ、いいでしょ」誰が見せれるかと内心吐き捨てる。ねぇねぇと五月蝿い口を黙らせる為、枕を掴んで投げてやるが力が入らず顔に当たる前にキャッチされた。そして暫く手に枕を持って考え込んだが、にまぁ~と顔に笑みを浮かべる。その顔は正しくいつも要らん事をする時の顔だった。「一緒に寝てほしいのな。サカズキも風邪の時は寂しがりになんのか」「ぶちまわすぞ」やめろと言ってもクザンはそのままサカズキの静止を押し除けて布団の中に入ってきた。ふわりと香るクザンの匂いと、程よい体温にぐらり、と頭が溶かされる。「お前さん専用の氷嚢抱き枕…なんて」飄々としているのに何処までも柔らかい声音に、不覚にも目頭が熱くなった。思った以上に熱で頭がやられていたらしい。情けない顔をこの悪餓鬼に見せたらどんだけ揶揄われるか。それに…いつだって恋人には情けない姿ではなく、かっこいいと言われる姿で有りたい男心を分かれと内心でキレ散らかす。こんな無様を晒すのは今回だけだと自身にいい含め、腕の中の身体を抱きしめる。そして、情けない面を誤魔化す為に、顔をサカズキ専用氷嚢の頭へ埋めた。
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