ガラッ。静まりかえった教室のドアをあけるとクラスメイトからの視線が一斉に向けられる。視線を一向に浴びるのはあまり好きじゃない。どうしたーみょうじ?という先生の問い掛けに保健室で休んでいたと適当に嘘をついて少し俯き加減に自分の席に向かった。仁王君の席はまだ空いたままだ。







「なまえ」

ぼーっと残り少ない授業を聞いていたらいつの間にか休み時間になっていたみたいでブン太が私の席の前に立っていた。

「保健室行ってたって嘘だろぃ?」

『!』

「お前俺に先行けとか言っておきながらずっと戻ってこなかったもんな」

『それは…』

「仁王と一緒にいたのかよ?」


図星で思わず肩が揺れた。

「お前は嘘つけねぇもんな」

ブン太は何も言わずに教室から出て行ってしまった。私はブン太の顔を…直視することが出来なかった。仁王君とは何もないのに何処か心の裏ではその事を後ろめたくて…ブン太の顔を見るのが怖かった。


それからずっとブン太は教室に戻って来なかった。





放課後になり、いよいよ心配になってきた私は勇気を振り絞ってテニスコートに足を運んだ。フェンスの周りには黄色い声援を送る女の子達。うぅ…なんか怖いな。ブン太の彼女と知られているだけあって、私は女子からあまり良い印象を持たれていない。品定めされるような視線が突き刺さる。胃が痛くなりそうだ。もう帰ろうかと生徒玄関に向かっている時、不意に誰かに肩を叩かれて思わず振り返った。


「みょうじさん?」

『ゆ、幸村君?』

「あ、やっぱりみょうじさんだ」

『私の事…知ってるの?』

私と幸村君は初対面だ。幸村君は何かと有名で私は一方的に彼の事を知っていたが、幸村君が私の事を知っているとは思わなかった。

「そりゃあ丸井の彼女だしね」

ああ、成る程、それでか。同じテニス部だけあって、そういう情報はしっかり入ってくるのね。

『今から部活?』

「うん。ちょっと委員会が長引いちゃってね」

肩にしょっていた大きいテニスバッグを引き寄せながら幸村君は笑った。

「そういえばみょうじさんはさっきテニスコートにいた?」

何で知っているんだろうと目を丸くしていると、幸村君はクスクスと笑いながら、花壇の花の世話をしている時に見えたんだと教えてくれた。委員会の時でもテニスコートを気にするほどテニスが好きなんだと思っていると、幸村君は「みょうじさんは何か丸井に用事?」と聞いてきた。

『…うん、ブン太が昼休みからずっと授業出てなくて、放課後も戻って来ないからもう部活行ってるのかな…と思って』

「俺が見てた限り、丸井の姿は見えなかったよ」

部活にも行っていない…じゃあブン太何処で何をしているの?不安で胸がざわつく。そんな私に幸村君は何か感じとったのか、俺も丸井を探してみるよと言ってその場で別れた。


ブン太、何処行っちゃったの?もしかして私と仁王君との間に関係があるって誤解した…?私はただブン太が好きなのに。足が次第に速まるのが分かる。立海は規模が大きいだけあって、なかなか見つからない。息が切れてきた。大体の場所は見に行ったはず。何処にもいないので諦めて教室に戻り、ドアを開けると二つの影が重なっているのが見えた。




…見なきゃよかった。




『ブン太…』




ブン太と佐久間さんがキスをしていた。