結局私は何も聞けないままだった。トイレに行くからという理由でブン太には先に教室に戻っててもらった。誰もいなくなった屋上に一人佇む。ブン太と喋っている時から震えていた足が崩れて私はアスファルトに座り込んだ。ずっと我慢していた涙が一気に溢れ出す。大粒の涙がぽつぽつとアスファルトに水玉模様を描く。苦しい。恋ってこんなに苦しかったっけ?両想いになって舞い上がっていたあの頃の気持ちは何処かに消え去ってしまった。今はただ…辛い。

「みょうじは馬鹿じゃ」

頭を上げなくても独特の方言と低めの声で分かる。

『仁王…くんっ』

仁王君は私の傍にしゃがんで、また私の頭を撫でてくれた。その優しさが余計に私の涙腺を緩ませる。

「声抑えんでもよか。気が済むまでいっぱい泣きんしゃい」

それから私は仁王君に抱きしめられ、これでもかってぐらい大泣きした。声をあげて泣いたのはいつぶりだろう。屋上には何処かのクラスが体育でわいわい賑わっている声と私の泣き声が響き渡った。




『もう大丈夫、ありがとう仁王君』

「もうええんか?もうちょっと胸貸してやってもよかよ?」

『恥ずかしいからいいよ。これ以上引っ付いてたら鼻水ついちゃうし』

「…それは勘弁」

仁王君と話していると自然と笑みがこぼれる。何も言わずにただ抱きしめながら背中をさすってくれた仁王君の優しさには感謝してもしきれない。

『仁王君には泣いてるとこばっかり見せちゃってるね』

仁王君はただ私を見つめる。

『仁王君はさ…どうしてこんなに優しいの?』

ずっと聞きたかった。どうして私なんかに優しくしてくれるのか。仁王君みたいなモテる人はすぐ泣く女なんて面倒臭いだろうに。

「お前さんが好きじゃから」

『えっ』

「…なーんてな、嘘じゃ。ときめいたじゃろ?」

『ちょ、ちょっと!』


しまった、騙された。そうだった。仁王君はコート上のペテン師って言われてるぐらい騙すのが得意だった。意地悪げにニヤニヤと笑う仁王君にムカついて、先に屋上を後にした。恐らく後ろでは仁王はクスクスと笑いをこらえているのだろう。まああれが仁王君なりの励まし方なんだろう。でも一瞬ドキッとしたのを返して欲しい…





「…切ないのう、ペテン師が片想いなんて」