それから私はなるべく仁王君とは喋らずにブン太と一緒にいようと心がけた。でもやっぱり席が隣だというのは無理な話で…普通に仁王君と喋っていたりする。
「お前さんもブンちゃんが彼氏やと大変じゃのう」
『あはは、そんな事ないよ』
笑っているのに心の奥では虚しくなる。なんだろうこの気持ち。仁王君はそんな私を見抜いてか「無理せんでよか」と優しく微笑んでくれた。その言葉で涙腺が緩む。
『に、におっ…くん…』
よしよしと綺麗な手で私の髪を撫でてくれる。仁王君は本当に優しい人だ。
「ブンちゃんも馬鹿じゃのう。俺とみょうじには喋るなって言っておきながら自分は隣の席の女子と楽しそうにしちょる…なんて」
ブン太と佐久間さんはいつの間にかお互いを下の名前で呼ぶようになった。休み時間になればいつも私の所へ飛んできて、仁王君と私と談笑しているのが日常だったのに、今では佐久間さんとずっと喋ってる。時にはお菓子を交換したりしながら笑い合ってる。ブン太の人懐っこい性格は理解している。お菓子を与えたら飛びつく事も知ってる。でも、私以外の女の子と仲良くしてほしくないよ。だから私は本音を言うためにブン太と話すことにした。
『ブン太、ちょっといい?』
「あ?なんだなまえか、どうしたんだよぃ」
ブン太の隣に座る佐久間さんの痛いくらいの視線を感じる。楽しそうに談笑してる所に入ってくるなんて感じ悪いとでも思っているのかな。
『ちょっと話したいことがあって…』
そう言うとブン太は立ち上がって「とりあえず屋上行こうぜ?」と歩き出した。
「で?どうした?」
『あ、あのね…』
どうしよう、いざとなると言えない。ブン太に嫌われちゃうんじゃないかって…怖い。
「まじでどうしたんだよぃ?」
『さ、最近佐久間さんと仲良いよね!』
思い切ってちょっと遠まわしに言ってみた。どんな反応するかな。おそるおそるブン太を見ると、特に変わった様子はない。
「そうか?まぁあいつ面白いし、いい奴だからな」
『そ、そうなんだ…どういう話してるの?』
「んーあいつ見た目のわりにゲーム好きらしくて、そういう話かな。あとはお菓子!」
『お菓子?』
「佐久間ってよくコンビニでお菓子を買って来てくれるんだよぃ。本当いい奴だよな」
『そっか…』
「話ってそれだけ?屋上さみぃしもう戻ろうぜ」
なるべく元気を装うように笑った。きっとぎこちなく笑ってるんだろうな。そんな私にブン太は何も気づかない。もし仁王君だったら…また頭を撫でてくれるのかな。
『…そうだね』
ブン太の気持ちが分からない。今思うと、このときからブン太と私の歯車は狂いだしていたのかもしれない。ねぇ、ブン太はあの頃、私の事好きだった?