「ちょっと来いよ」
数学の時間が終わった時、ブン太は無表情のまま私の腕を引っ張り、私は屋上へと連れて来られた。
『い、痛いよブン太!』
「お前さぁ、」
突き刺さるような視線。いつものブン太じゃない。雰囲気が怒ってるみたいで凄く怖い。
「俺の事好きじゃねえのかよぃ」
どうして…どうしてそんな事言うの?ブン太には私の気持ちが伝わっていなかったの?
『好きに決まってるじゃない!ブン太の馬鹿!なんで分かんないの…』
ぐっと唇を噛んだ。少し気を緩めれば一気に涙が溢れ出そうだ。少し俯きながら目をぎゅっと閉じた。するとガバッと音がしそうなほど私の体はブン太に覆われた。
「あー!まじ余裕ねぇ…」
抱きしめられているため顔はよく見えないけど、胸越しに感じるブン太の鼓動はびっくりするほど早い。
「ごめんな、最近、お前が仁王と仲良くしてんの見てたらイラついちまって。本当はお前の気持ち、分かってんのに。俺かっこわる…」
ブン太の抱きしめる力が少し強まった。我慢していた涙が一気に流れ出る。ブン太のブレザーが涙で少し濃く染まる。私は少しずつブン太の背中に手を回した。それに気づいたブン太は少し驚いていたが、すぐに優しい表情に変わった。
いつまでもこうしていたい。こうやってブン太の体温、匂い、鼓動を感じられる瞬間が一番好き。でも…ブン太と佐久間さんの関係って何?すごく仲良いじゃない。佐久間さん絶対ブン太の事好きだよ。ブン太に全部言いたかった。でもこの温もりをまだ感じていたい。好き、好きだよブン太。だから、離れて行かないで…
あの頃の私は言いたい事を言えずに、ただ自分が傷つかないようにごまかしていた。もしあの時、気持ちをぶつけていたら私たちはずっと一緒にいられたのかな?