「「きゃー!丸井くーん!」」

「「仁王君こっち向いてー!」」


クラス替えから早数ヶ月。クラスには大分慣れたものの、この黄色い歓声には未だ慣れずにいる。


「またあいつらかよ、うるせーな」

「毎日毎日懲りん奴らじゃのう」

「なまえ、あんな奴ら気にしなくていいからな?」

『う、うん』

そうは言ったものの、自分の彼氏がアイドルみたいにきゃーきゃー騒がれるのは気が気じゃない。先日、テレビで有名イケメン俳優の熱愛報道がされていたのを思い出した。確か相手は一般人だとか。その時は何も思わなかったけど、今はなんだか私とブン太が当てはまっているように感じた。彼女さんはこんな複雑な想いをしていたのかな。本当だったらブン太は私の彼氏だから近づかないでって言ってやりたい。でもブン太の事を好きだという子は沢山いる。むしろ私みたいな彼女というポジションを得ている点では他の誰よりも幸せ者なのかもしれない。でもやっぱり独り占めしたい。…でも周りの女子に嫌われるのは確実…それに重いと思われてブン太に嫌われるかも…。そんな無限ループをひたすら繰り返す。そのせいか心のモヤモヤは晴れずに増えていくばかり。同じクラスも楽じゃないなぁと思いながらため息をはくと、仁王君は何も言わずにいちごみるくキャンディーをくれた。仁王君なりに気をつかってくれてるんだろう。多分仁王君は私の気持ちを理解している…と思う。洞察力の鋭い彼には私の事やブン太の事はなんでもお見通しみたい。私はありがとうと言ってキャンディーを口に入れた。いちごみるく味の甘さが心まで染み込むようだった。






「授業始めるぞー!お前ら早く席につけー」

休み時間もあっという間に過ぎて、数学の時間になった。あーあ、面倒臭い。私、数学が一番苦手なのに。呪文のように流れゆく数学の授業を聞く気にもなれず、隣の席の仁王君とお喋りしようと思ったのに、仁王君は爆睡中。ちなみに私と仁王君は窓側の一番後ろ、ブン太は真ん中の列の前から3番目の席である。仁王君って殆ど授業中は寝てるかサボってるかなのに成績はいいから羨ましい。
仕方なく前を向くと、ブン太と栗色の長い髪の女の子が談笑しているのが視界に入った。現在ブン太の隣の席の佐久間美桜(さくまみお)さん。お人形さんみたいにくりくりとした目にぽってりとした発色のいい唇の持ち主の佐久間さんは女の私から見ても可愛い。何話してるんだろ。最近仲いいみたいだし。佐久間さんの笑った顔可愛い。ブン太の事…好きなのかな。


「丸井の一番はお前じゃ」

『うわぁっ!仁王君、寝てたんじゃないの?』

「お前さん眉間に皺よせながらあの2人見てたぜよ。ほれ、今も」

仁王君に鏡を手渡されて見れば、真田君が罵声を散らす時並の皺をよせていた。

『…不細工』

「みょうじも大変じゃの」

『あはは…』


「こらみょうじ、仁王、授業中に私語は慎めー」

ちょっと先生、私と仁王君だけ怒られるのはおかしいですよ。ブン太と佐久間さんも喋ってたじゃないですか。ふとブン太達のほうを見ると、何故かブン太は私を睨んでいた。目が合うとブン太は再び黒板のほうに向き直り、それからは二度と後ろを向かなかった。