「俺と付き合って」


中学1年生の秋、平凡な毎日を送っていた私の日常は簡単に崩れ落ちる事となった。


『え…な、なんで?』

「なんでって…好きだからに決まってんだろぃ」


私の目の前に佇む彼、もとい丸井ブン太は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながらポケットに手をつっこんだ。


『好き?私を?』

「うん」

『で、でも私、丸井君の事あんまり知らない…』


丸井君は隣のクラスでテニス部に所属している事、そして女の子から密かに人気だという事は知っていた。でもほんとにそれだけで、直接喋った事なんて一度もなかったし、接点はないに等しかったので、丸井君が私の事を好きだというのはそう簡単には信じられなかった。


「俺の名前知ってるじゃん。今はそれだけで十分だって。お互いの中身はこれから知っていけばいいだろぃ?」


丸井君は真っ直ぐ私を見つめてくる。その真剣な眼差しに私も目を反らせない。


「俺、入学式の時からお前が好きだった。一目惚れだったんだ。なあ、これでも俺の想い伝わらない?」


うそ、一目惚れなんて…顔が次第に熱くなった。丸井君みたいなかっこいい人に好きと言われて純粋に嬉しい。

人懐っこくて可愛らしさとかっこよさを持ち合わせていてクラスのムードメーカー的存在の丸井君。彼と付き合えたらどんなにいい事だろう。でも私は平凡で、特別可愛くもなくて、大人しくて。丸井君とは逆の要素ばかり備わっている。端から見たら私と丸井君は月とスッポンなんじゃないか…そう思うとなかなか首を縦にふることは出来なかった。


「お前今、俺とじゃ釣り合わねえと思っただろ」


私は思わず顔を上げた。まさか自分が考えていた事を言い当てられるとは思っていなかったから。
図星なんだなと呟くと丸井君はゆっくりため息をついた。


「あのなぁ、俺が一目惚れしたって言ってんのに釣り合うか釣り合わないか考える必要があんのかよぃ?もっと単純に考えろって。俺はお前が好きなんだよ。周りの反応とかそういうものはどうでもいい。俺が知りたいのはみょうじ自身の気持ちなんだけど」


心の中のモヤモヤが浄化されたかのようにすーっとなくなっていく。


「それに…俺だってお前と釣り合うか不安なんだよぃ」


それぐらい分かれ、とそっぽを向く丸井君。


どきんっと心臓が跳ねた音がした。不安だったのは丸井君だけじゃなかったんだ。そうだよね、こうやって告白するのにもかなりの勇気がいるはずだ。私だったらフラれるのが怖くてきっと出来ない。

『丸井君…』

丸井君は視線だけ私に向けた。

『ありがとう』

「え…」

『私の事、好きになってくれてありがとう』


丸井君はしばらく驚いていたけど、「変な奴」と言ってふわっと笑った。


「俺、みょうじのそういうとこも好き」


ああ、きっと丸井君は私を真っ赤にさせる爆弾装置だ。丸井君からこんな言葉を貰えるなんて今私は世界一幸せなのかもしれない。


『今は正直、好き、まではいかない。けど、絶対に丸井君の事、好きになると、思う…』

「ハハッ、上等だろぃ。絶対に俺の虜にさせてやるよ。だからさ…」


─覚悟しとけよ?


彼の大きな目が私を射るように見つめる。その時点でもう私は彼の虜になっていたのかもしれない。


それから私と丸井君のお付き合いが始まったのである。