季節は巡り、再び桃色の花びらが舞い散る季節となった。大学の入学式が終わったあと、私は1人、とある場所に来ていた。あれから2年半の月日が経ち、今私は真新しいスーツに身を包んでこの桜の木の下に立っている。この一本の大きな桜の木は、私の青春がたくさんつまった場所。

『懐かしい…』

見慣れた校舎に再び来れたことを本当に嬉しく思った。



立海大学に戻ろうと決意した理由。それは単に私の志望する学部があって、カリキュラムも充実しているから。でもそれだけじゃなくて。本当は…まだどこかで彼のことを探している自分がいたから。

学校を変えても、もう連絡がとれないようにメールアドレスを変えても、必死に勉強や部活に打ち込んでも。あの日再会したせいで、忘れようとしていた彼が脳裏から離れなくなった。最後に笑ったブン太の表情が、頭から離れてくれない。

(だって私は、ブン太の笑顔が大好きだったから)


自分勝手だとか、都合がいいと彼は思うかもしれない。過去の恋を忘れられずに、ずっとひきずってきているのは自分だけなのかもしれない。それでも私はこの恋を止められそうにない。それぐらいブン太が好きなのだ。



一瞬ふわっと風が強くふいた。桜の花びらはさわさわと音をたてながら空中を舞いはじめる。まるで何かが起こる前兆のよう。

その瞬間じゃりっと足音が聞こえた。まずい、そういやここは中学校の敷地だった。スーツを着た私がいたら場違いだよね。その場を立ち去ろうと思い、後ろを振り向いた。時間がとまったみたいに私はその場から動く事が出来ない。

「よぉ」


嘘でしょ…?


「久しぶりだな」

2年半ぶりか?と微笑みながら燃えるような赤い髪をなびかせながら言う彼は紛れもなく。

『ブン太…!どうして…?』

「なまえがいるところなんてお見通しだっての。…って言いたいところだけど、幸村くんから教えてもらった」

そういや幸村くんに進路の事で相談にのってもらっていたんだっけ。立海に戻っておいでと言ってくれたのも彼だった。

「俺、お前が立海からいなくなった時にどれだけなまえが大切か分かった。だからお前と再会した日、俺のしたことは最低だって改めて実感させられた。そうしたらなんか悔しくてよー。幸村くんにも仁王にも散々言われるし。だから高校では一人も彼女とか作らなかったし、部活も真剣に取り組んだ。幸村くんになまえが立海に戻ってきてもらうのを頼むためにな。これは一種の賭けだった。もしなまえが戻ってきてくれるのなら、俺にはまだチャンスがあるのだと」

「で、なまえは戻ってきてくれた」

ふわっと笑った彼はとてもまぶしくて。

「大好きだ、なまえ」

私だけだと思ってた。過去の恋を忘れられずにいたのは。ホント…ズルいよ。

『私だってずっとブン太の事忘れられなかったんだよ。馬鹿ブン太!大好きだ馬鹿!』

お前馬鹿馬鹿言いすぎだろぃと笑った顔は私の大好きなブン太そのもの。ブン太は大きく手を広げた。まるで俺の胸に飛び込んで来い!とでも言っているように。

「おかえり」

『…ただいま!』

彼の、成長して逞しくなった胸に思いっきり飛び込んだ。それと同時にブン太もぎゅっと私を腕の中に閉じ込める。充満していく懐かしいブン太の匂いがこれが現実であることを証明してくれる。


「なまえ」

名前を呼ばれてゆっくりと顔をあげる。自然と重なっていく唇。
最初は触れるだけだったのが、自然と濃厚なものになっていって。体の力が抜けそうな私にブン太は何度もキスをした。

そしてまた強く風がふき、桜の花びらが舞う。今度は私たちを祝福してくれているように。

一度はお互い素直になれないせいですれ違ってお互いを傷つけた。何度も遠回りをして長い月日が経過した。きっとこれからもいろんな事が起こるだろう。でもそうなったら、また抱きしめて、キスをして。何度もやり直していけばいい。

『ねぇブン太、もう一回ぎゅっとして』

「飽きるくらい何度でもしてやるよ」



『「愛してる」』


Fin

20121016