白蘭女学院に入学して数ヶ月がたった。私は毎日充実した生活を送っている。女子校って最初は怖いイメージしかなかったけど、案外楽しいもので沢山友達が出来た。みんな美意識が高いため、友達に影響されて化粧やお洒落を覚えた。毎日が楽しい。立海にいたころみたいに男絡みではぶられる事もないし、みんなしっかりしているので、互いに高め合う事が出来る。私の選択は間違っていなかったと思っている。


でもやっぱり立海のみんなは恋しい。寂しくなったりすると約束通り幸村君や仁王君とは頻繁に連絡をとっている(もしかしたら私からメールする事のほうが多いかも)。二人とも高等部のテニス部に入部してさらに忙しくなったと言うのに、こまめに返事を返してくれる。そんな所がきっとモテるんだよね。でも二人は気を遣ってか、ブン太の事は言ってこない。私としてもあまり触れたくないので、二人の気遣いに甘えていたりする。


ふとしたときに思う事がある。ブン太は私がいなくなって何を思ったのかな…って。きっといろんな女の子と遊んでるだろうから、何も思っていないかもしれないし、私が立海にいないことすら知らないかもしれない。でも少しでも私の事を気にかけてくれたらいいな…。

「じゃあねーなまえ!」

『また明日ねー!』


友達と遊んでいたらすっかり遅くなってしまった。ちょうどきた電車にギリギリで飛び乗った。遅い時間とは言え、部活帰りの学生や仕事帰りのサラリーマンが沢山乗っている。外は雨が降っているため、車内はかなりじめじめしていて気持ち悪い。私はiPodを取り出し、音楽を聴きながら最寄り駅に着くのを待った。



改札を通りぬけ、家に帰ろうと傘をさして歩き出した時、いきなり肩を捕まれた。思わずきゃっと声をあげて振り向く。

『え…』

そこには傘をささずに立っているブン太が立っていた。

『な、なんで…』

「なんでじゃねーよ!高等部の入学式でお前の姿がなかったから幸村くんと仁王に聞いたら外部受験したって言うし、何処高か聞いても教えてくれねーし、まじ意味わかんねー!探したんだぞ!」

驚いた。ブン太はもう私に興味がないと思っていたのに。気にかけるどころか探してくれたなんて。でも駄目、期待しちゃ駄目…

「その制服…白蘭女学院だよな」

『…うん』

「まさか…外部受験してるとは思わなかった」

『…っ』

「なんで?」

『…』

「…俺のせいか」


ブン太は自分を嘲笑うかのように笑った。彼はこんなふうに笑っていたっけ?


『ブン太のせいじゃないよ。私が自分で決めた事だから』

「じゃあどうして!」


一気に静寂に包まれた。降りつける雨の音だけが聞こえる。気まずい状況だと分かっていながらも何故か頭の中は冷静だった。


「どうして俺には言わねーんだよぃ…?」

『じゃああの時、もし私がブン太に話し掛けたらブン太はどうしてた?』

「!」

『きっと私の事、無視するよね』

「…」

『もう終わった事だから…お互い忘れよう』


ブン太の表情は何故か泣きそうだった。なんでブン太がそんな顔するの。やめてよ。泣きたいのはこっちのほうだよ。









「なんか、引き止めてごめんな」

『ううん。久しぶりにブン太と話せて良かった』

お互い笑い合う。あの頃みたいにくすぐったい笑いではなく、ぎこちない笑い方だけど、それでもいいかなって思う。

『じゃあね』

私はブン太に背を向け歩きだす。これでいいの、これで。それでも後ろ髪を引かれる感じがしてしまうのはどうしてなんだろう。


「なまえ!」

私は反射的に振り向いた。

「なまえは俺と付き合って後悔してる?」

そんなの…決まってるじゃない。

『後悔なんてしてないよ!ブン太のお陰で毎日がキラキラしてた。私なんかと付き合ってくれてありがとう!』

そう言うとニカっと笑ってくれた。やっぱりブン太は笑顔が似合うね。

お互い手を振って反対方向に歩みだす。雨は止んだはずなのに私の頬は濡れていた。涙が止まらない。今思えば、あの頃が一番幸せだったな。辛くて涙が枯れるぐらい泣いたりしたこともあったけど、私にとってはいつまでも色褪せない大切な宝物。いろんな経験をさせてくれてありがとう。

大好きでした。