君に引き込まれて行くの


「なまえ」

『…』

「なまえー」

『……』

「…なまえ!!」

『うわっ!』

「うわっ!じゃないわよ!何回呼んだと思ってるの?もう講義終わったけど」

『あ、本当だ…』


やばい。全く聞いてなかった。そのせいで教科書の隣に備え付けていたルーズリーフは真っ白だ。いつも長いと退屈に思っていた90分が早く感じた。今までこんな事はなかったのに。そんな私を見て香織はちょっと来なさいと私を大学から連れ出した。…デジャブ?










香織に引っ張られてやって来たのは、やはりあの時幸村君に連れてきてもらった定食屋だった。


「ねぇ、何悩んでるの?」

『え?』

「あんた、試合を見た後から変だよ」

『そ、そんなことないって』

「幸村君のこと?」

『!』

香織は私の肩が震えたのを見逃さず、やっぱりねと水を飲んだ。


「長年腐れ縁やってればそれぐらい分かるわよ。なまえってば、さっきの講義中ずーっと幸村君の事見てたんだから」

『嘘…』

「自覚してなかったの?相当ね」

香織に言われるまで気づかなかった。私が幸村君を見てる…?


ふいに幸村君の見下した顔、真剣な表情、豪快に笑った顔、優しい表情、どれも鮮明にフラッシュバックされて思わず顔が熱り、慌てて水を飲み干した。

「その様子だと…」

『あ、ありえない!』

香織が言おうとした言葉を遮ったせいか、香織は少しふて腐れ気味。

「ちょっとー」

『あ、あいつは最初から会った時から最低で上から目線で猫かぶりで、でもたまにふと優しかったり豪快に笑ったり男らしかったり陰で努力してたり…とにかくありえない!』

「途中から惚気入ってるんですけど」

最初の印象は超最悪。お互い生まれたままの姿で、初めて喋ったのにいきなり見下されて…でも講義で隣だった時は私が起きるまで一緒にいてくれたりご飯もおごってくれたり幸村君の大好きなテニスを見せてくれたり…関わりたくないと思うのに何かしら幸村君が現れて、意識しないようにしても頭の中の幸村君は消えてくれなくて。頭がくらくらする。幸村君の事を考えるだけで動悸が激しくなったり体が熱くなったり心臓がぎゅっと締め付けられる。

私は…もうこの感覚が何なのか気づいている。でも、認めたくない。認めてしまったら私じゃなくなる気がして。ああもう、どっか行って!



I'm sure of my feeling.
(確信してしまった、この気持ち)


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