不覚にもときめくなんて…


ゆさゆさと身体が揺れている感じがする。誰よ私の眠りを妨げてる奴は…。せっかく気持ち良く寝てるっていうのに。次第に揺さ振り方が激しくなってきた。力も何気に強い。…イライラする。仕方なくゆっくりと目を開けると、面倒臭そうな顔をした幸村精市がいた。


『…なんであんたがいるの』

「寝ぼけてるのかい?」

『…講義は?』

「とっくに終わってるよ。ここにいるのは俺とみょうじさんだけ」



…は?



ガバッと起き上がり腕時計を見ると、講義終了からすでに30分以上過ぎていた。


『ちょっ!なんでもっと早く起こしてくれなかったのよ!』

「せっかく起こしてやったのにそんな態度はないんじゃないかな?何回も起こしたのに起きなかったのは君のほうだよ」

『…っ!別に私が起きるのを待ってなくても良かったのに』

幸村君に何も言い返せなくてふて腐れていると、幸村君は可愛くないなぁと言って苦笑いをした。どうせ可愛くないですよー。

「笹川教授に君が起きるまで一緒にいてやれって頼まれたんだよ」

そんなの、別に無視して私を置いて行けば良かったのに。そう言うとまた可愛くないと言われそうだからぐっと言葉を飲み込んだ。


幸村君は…昼食を食べずに私が起きるのを待っていてくれたんだろうか。


そう考えると急に申し訳ない気持ちに襲われた。


『ごめん…』


私が頭を下げるなんて予想していなかったのか、幸村は少し驚いた表情を浮かべたが、またいつもの表情に戻った。


「ちょっと付き合ってよ」

『えっ?!』

いきなり手を引かれ状況が読めない私はそのまま彼に引っ張られていく。

『ちょっと、何処行くの!』

そう私が尋ねても答える気配はなく、いつの間にか大学の外に出ていた。大学から出て5分くらいした所で幸村君がやっと足を止めた。そこは定食屋で私も何度か利用したことがある店だった。

「ここでいい?」

起こしてやった代わりにここで飯でも奢れという事なのだろうか…。とりあえず首を縦に振った(大学の近くだけあって価格もリーズナブルだし)。


中に入って適当に空いている場所に座ると、幸村君は私の分のメニューをとってくれた。彼は何がしたいのだろう。関わらないでおこうと決めたのに何故か講義で隣になってしまい、最終的にはこうやって二人で定食屋。全く幸村君の考えている事が分からない。ちろっと上目で幸村君の様子を見ると、決まった?と私に尋ねてきた。おっといけない、違う事考えてた!私は慌ててメニューを選んだ。


「お腹すいてたんでしょ?」

『えっ…うん』


なんで分かったんだろうと眉をひそめていると、なんで分かったのって言いたそうだねと余裕そうに笑った。


「寝てる時でもお腹って鳴るんだね」

え…私寝ながらお腹鳴らしてたの?何それすごく恥ずかしい。絶対顔が赤くなってる。そんな私を見て幸村君はお腹に手をあてて笑っていた。もう、そんなに笑わなくてもいいじゃない!









「で、本題だけど」

幸村は水を一口飲んで私を見た。

『な、何?』

「どうして昨日先に帰ったの?」

『!』

「シャワールームから出たら君がいなくて驚いたんだけど」

『それは…』

「心配したんだからな」

『えっ』

「あんな時間に酔っ払った女の子が一人で帰るとか馬鹿じゃないの。もっと自分の事考えろよ」

いつもの優しい口調ではなく、男らしい口調で話す幸村に少しドキッとする。

『…ごめん』

「まあ何事もなくて良かったよ」

そう言って私の頭をぽんぽんと撫でる。びっくりして幸村君の顔を見ると優しく笑みを浮かべていた。不覚にも胸が高鳴るのを感じた。前の彼も同じように頭を撫でてくれた。でも何か違う。幸村君のほうがとても心地好い。なんでこんな気持ちになるのだろう。幸村君は…よく分からない人だ。



Don't stare at me like that.
(そんな優しい顔で見つめないで)
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