こんな私を愛してくれる?
連れてこられたのは使用されていない教室だった。静寂に包まれた空間はさらに私の心臓の高揚を促進させる。
「ここなら大丈夫かな」
沈黙を破った幸村君の声に肩が震えた。
「何かあった?」
その優しい声がムカつく。何よ、さっきまで可愛い子と仲良くやってたのに!彼女なんじゃないの?ほっといていいの?どうしてそんな優しい目をしてるの?意味わかんない!
『…あんたなんてだいっ嫌い!』
「は?」
『私の身体だけ奪って送り狼かっつーの!女の敵!』
「何言って…」
『いつもそうやって笑ってれば可愛い女の子がよってくるんでしょ!』
「ちょっ…」
『私はあの子と比べたら全然可愛くないし重いし面倒な女だもんね!』
「…」
『あんたの近くにはいっぱい女の子が集まるかもしれないけどね、私なんて7回もフラれてんのよ!』
「…」
『私なんてどうでもいいくせに変なとこで優しくしないでよ!』
「…」
『あんたなんか…あんたなんか……んっ!』
いきなりの事で何が起こっているのか分からなかった。唇に柔らかい感触。私は、幸村君にキスされていた。感情に任せて大声で叫んでいたせいで酸素が足りていなくて息が苦しい。抵抗してもなかなか離してくれず、むしろどんどん深くなっていく。こんなに溺れていくキスは初めてで…やっと唇が離れた時、酸素が足りないせいで頭がフラフラして幸村君の胸に崩れ落ちた。
「もしかして俺に惚れた?」
『な、何言って…』
「やっぱり惚れたんだ」
『ちがっ!』
「じゃあ上手く操れたわけだ」
『…は?』
そう言ってニコニコしながら私の頭を撫でる。
「まさか本当にあの夜、何もないとでも思ってた?」
『は?』
どうやら私が居酒屋で飲んでいる時、ちょうど幸村君も同じ場所で飲んでて、私達が出るのを見かけたらしく、私がひどく酔っていたので声をかけたらしい。
「その時はラブホテルに行くつもりはなかったんだけど、君が気持ち悪いって言うから仕方なくね。ちょうど近くにそれがあったから」
『じゃあ私達が裸だったのは…?』
「みょうじさんが吐いた…『うわー!もういいです!』
まじか、まじなのか。ずっとシちゃったと思いこんでいたのも恥ずかしいけど…幸村君に迷惑をかけたのが一番恥ずかしい!しかも帰る時には服が綺麗になってたし。それなのに金も払わずに帰るなんて…人生最大の汚点だ!もう穴があったら入りたい…。そんな私を可愛いと言って頭を撫でる幸村君。
『じゃあなんであの時否定しなかったの?』
「そう思ってくれたほうが俺の事を意識するだろ?」
『はぁあ?!』
「あと、試そうとして隣に座ったのは嘘。みょうじさんがもっともっと俺の事を意識してくれないかなと思って隣に座ったんだ」
思った以上に意識してたよねと悪戯っ子のように笑う。そんなの当たり前じゃない!
「それとね、俺達大学で知り合った訳じゃないんだよ」
『え?』
「みょうじさん、外部生でしょ?」
私はこくっと頷いた。幸村君が言った通り私は中、高は公立の学校に通っていた。だからテニス部が有名と知っていてもみんなの名前までは知らなかった。
「高3の時に立海のオープンキャンパスに来て、倒れなかった?」
『そういえば…!』
そうだ、あの時あまりにも人が多すぎて、人混みに酔ってしまったんだ。でもどうして幸村君が?
「君を医務室に運んだのは俺だよ」
『えぇ!?』
「ちょうど大学の先輩と練習試合をする事になって、俺達もあの日大学のほうにいたんだ」
『…』
「休憩時間に日陰に行こうとしたら君がそこに倒れていて…」
『…』
「一目惚れだったんだ」
まさか、そんなのありえない。あの頃はただただ立海に入りたいってだけで今みたいにお洒落に力を入れていなかったのにどうして…
「何故かは分からない。でも…直感的に君が欲しいと思ったんだ」
でも沢山ある大学の中でみょうじさんが立海を選ぶかも分からないし、立海は偏差値も高いし、一時は諦めたんだと切なそうに笑った。
「でも、また会えた」
『幸村君…』
「ずっと好きだった」
顔が赤くなるのが分かった。嬉しくて涙が出そうだ。幸村君はそんな私の顎をくいっと上げて顔を近づけてきた。
「で、返事は?」
『私、重いよ』
「うん」
『電話もメールも毎日するし』
「問題ないよ」
『携帯チェックするかもよ?』
「好きなだけ見ればいい」
『束縛するし…』
「俺のほうが束縛激しいかも」
ふふっと二人で笑い合う。
『まんまと操られちゃったわ』
幸村君に抱き着いて、耳元で好きと囁くと、幸村君の顔はみるみる赤くなった。やばい、これは超レア!優越感に浸っていると、あっという間に目の前が天井に変わった。
「少しなまえにはお仕置きをしなきゃね」
『(名前呼び…!)』
「さっきから顔を真っ赤にして、その上涙目で…誘ってるの?」
『ちがっ!』
「あの夜出来なかった分、覚悟しとけよ?」
『こ、ここ教室!』
誰も来ないから。そう言いながら私に近づく精市にもう流れに任せようと目を閉じた。
『幸村君…』
「名前で呼んで」
『…精市』
「何?」
『こんな私を愛してくれる?』
「当たり前だろ」
だって…
I have had a crush on you since the day we met.
(初めて会った日から君に夢中なんだから…ね?)
『そういえば!』
「ん?」
『あの女の子は誰よ!彼女じゃないの?追きざりにして良かったの?』
「ああ、あれは仁王の彼女だよ」
『仁王…?』
「試合見に来た時に会っただろ?銀髪の」
『ああ!』
「中学までテニス部のマネージャーだったんだけど、途中で転校して、今は女子大に通ってるみたい」
『そ、そっか(良かった)』
「それよりもなまえ、鈴の事彼女とか言ってたよね?」
『ギクッ!』
「嫉妬してくれたの?」
『し、知らない!』
「フフ…(可愛い奴)」
happy end!