何処にも行かないで!私だけ見ていてよ!
「でね、その時なまえがー…」
「まじで!?やるっすねーなまえ先輩!」
『ねえ二人とも、プライバシーの権利って知ってる?』
何の縁か分からないが、香織と切原君と私でお馴染みのカフェテリアなう。
「いやーそれにしてもなまえ先輩がそんなに重いとは思いませんでしたよ!」
『うるさい!』
この頃切原君がちっとも可愛くない。っていうより香織の性格と似てきた感じがする。とうとう私を馬鹿にし始めた。切原君にまで重いって言われるとかかなり傷つく。私一応先輩なんですけど。あの頃の可愛い切原君はいずこ。もう英語の課題教えてあげない。そう言うと香織とかテニス部の先輩に教えて貰うんでいいっス!と言いやがった。悪魔だ。
それからも3人で世間話などをしていると、切原君がいきなり立ち上がった。
「ちょっ、あれ!幸村部長じゃないっスか?」
一瞬ドキッとしたが、平常心を保ちながら切原君が指指す方向を見る。
一瞬視界が歪んだ気がした。
幸村君は女の子とカフェテリアに入ってきた。私達には気づいていない様子で、女の子をエスコートして二人席に座った。
「ちょっ、俺挨拶して来る!」
「コラ!」
香織が切原君のパーカーについているフードを引っ張って阻止した。
なんだよ!不服そうに言いながらも椅子に座って二人の様子を伺う。
「鈴、久しぶりだね。元気だったかい?」
「元気だよ!精市君達に会いたくて来ちゃった」
幸村君の前に座っているのは小柄でふわふわしていて守ってあげたくなるような女の子だった。どうやら顔見知りのようで、幸村君も嬉しそう。幸村君の笑顔を見ていると心がズシンと痛む。
幸村君はモテる。彼女もいるかもしれない。住む世界が違う人。全部分かっていたじゃない。だから関わらないでおこう、なかったことにしよう、そう思った。それなのにどうして胸が痛いんだろう。どす黒い感情が胸の奥からじわじわと滲み出る感じがした。私は心のどこかで幸村君との距離が縮まっていると思っていたのかもしれない。馬鹿みたい。全部私の勘違い。
「なまえ」
「なまえ先輩」
「なまえ!」
『な、何?』
「何じゃないわよ!ずっと呼び掛けても反応しないから心配したじゃない」
ずっと放心状態だったのだと気づいた。はっ、そういえば幸村君達は…?周りを見渡したけど二人の姿は見当たらなかった。そんな私を見て切原君は静かに口を開いた。
「幸村部長ならあの女と出ていきましたよ」
『えっ』
「追いかけなくていいんスか?」
追いかけるなんて私には出来ない。あの二人の間に入るなんて無理だ。幸村君を見たら私、平然といれる自信がない。俯いていると香織は私の両頬をぺちっと叩いた。
『あんたそれでもなまえなの!?一人目の彼氏の時は連絡が着かなかった時に100回ぐらい電話かけたのが原因でフラれて、二人目は浮気してないか尾行して、発覚した浮気相手に平手打ちかまして、三人目には所構わず好き好き言いまくったせいで引かれて……………とにかく恋愛に怯えてるなんてらしくないのよ!』
それを聞いていた切原君はうわっと顔をしかめていたけど、香織なりの励ましで私は目をさました。
そうよね。香織の言う通りだ。私は何を怖がっていたんだろう。自分の気持ちに嘘をついて自分で自分の首を絞めていただけじゃない。なんだかあほらしくなってきた。私は、幸村君の事が好き!もう嘘なんてつかない。そう決意すると自然と足が動いていた。
お願い、何処にも行かないで…
私だけ見ていてよ!
カフェテリアからそれほど離れていない所で二人の後ろ姿が見えた。
ええい!女は度胸!
『ゆ、幸村君!!』
私が大声で呼ぶと、隣を歩く可愛い女の子と幸村君は目を丸くして振り返った。
どうしよう…呼んだのはいいものの、突発的だったから何を言えばいいのか分からない。何か言わなきゃと思うに言葉が浮かばない。もうやだ。泣きそう。じわじわと涙が溢れそうなところで幸村君が私の手を引っ張った。
『え、ちょっ!』
幸村君はずんずんと歩いていく。ねぇ!あの子は?と幸村君に尋ねても返事が返ってこない。幸村君の足のコンパスが長くて小走りになってしまう。何処行くのと聞いても何も答えてくれない。ねえ、どうしちゃったのよ!
What's on your mind?
(何を考えているの?)