目を覚ますと、青々としていた空がいつの間にかオレンジ色に染まっていた。私、何時間屋上で寝ていたんだろう。屋上から見えるテニスコートからはボールを打つ音が聞こえてきたから、もう放課後なのだろう。結局全授業をサボってしまった。友達怒ってるかなぁ。もぞもぞと起き上がると私の肩から何かがパサッと落ちた。何これブレザーじゃん。私はちゃんと自分のブレザーを着ている。ではこれは誰の?サイズが大きい事から男子のものだということは分かる。

『何々、仁王…まさ…はる…!?』
「お前さん、随分長い事爆睡しとったのう」
『!?』
「まあまあそんなに警戒しなさんな」

上から声が聞こえてきたと思えば、給水タンクの後ろからは仁王雅治がひょこっと出てきた。勿論彼はカッターシャツ姿である。仁王は軽やかに飛んで私のいるところに着地した。

『な、なんであんたがここにいるの?』
「おまん知らんのか?屋上(ここ)は俺のテリトリーだって事」

そんなの知るわけないじゃない。第一学校は生徒の所有物じゃないんだから俺のテリトリーっていう表現はおかしい。

「まあ別に気にする事じゃなか。今日はおまんが先客やったんじゃし」
『そりゃどーも。ところであんた、部活出なくていいの?』
「サボりー」
『そんなんじゃ怒られるんじゃない?』
「おまんが幸村に上手いこと言っておいてくれ。幼なじみじゃろ?」

私が一瞬目を丸くした顔を見て仁王はニヤッと笑った。私、こいつ苦手だ。精市と幼なじみだと言うことは極少数の人しか知らなかったはずなのに何故仁王が知っているんだろう。厄介な奴に知られてしまった。

「大丈夫じゃよ。誰にも言わんし部活も出る」
『え、』

部活に出んと真田がうるさいからのぅと言って少し怠そうにネクタイを緩める。同じ中学生とは思えないような色気を放つのがやけに腹立つ。

「じゃーの」

いつの間にか黄色いユニフォームに早変わりしていた仁王はスタスタと屋上を後にしようとした。

『待って!』
「ん、」
『ブレザー…ありがと』

恥ずかしくて目が合わせられない。弱みを握られた上、恐らく寝顔を見られた。そんな私に気付いてかは知らないが、仁王は意味深な表情でプリッと言いながらテニスコートへ向かって行った。本当に仁王雅治はタチが悪い。