なのかめ

俺は何故か無機質な真っ白な空間にいた。周りには何もなくて白い空間が無限に続いている。本当に何もない。俺一人が立っているだけだった。しかし人の気配がして後ろを振り返ると、そこには白いワンピースを着た同い年くらいの女の子が立っていた。…誰?そこにいるのは誰?

『…く……て…』

「…え?」

女の子は段々俺から遠ざかっていく。待って、待ってよ!


そこで俺は目が覚めた。なんだ、夢か…自分の顔に手をあてて見ると汗が伝っていた。パジャマも汗でびっしょり張り付いて気持ち悪かった。あの女の子は誰なのか、何を言おうとしていたのか、疑問を抱えたまま俺はベッドから出ることにした。

あの不思議な夢のせいで汗でびっしょりになってしまったのでシャワーを浴びていたら朝練遅刻寸前だった。やばい、俺が遅刻なんてしたら部員に示しがつかないじゃないか。いつもは徒歩だけど今日は自転車で行こう。朝食は…今日はパス。身体に悪い事は分かってるけど今日は流石に無理そうだ。朝練終わったら何か買いに行けばいいや。朝の風は夏とは言え、そんなに暑くなくてとても気持ちいい。自転車で風をきりながら海辺の潮の匂いを嗅ぐ。ああ、とてもいい気持ち。いけない、朝練の時間が過ぎてしまう!俺はペダルをこぐ足を速めてテニスコートに向かった。

***

今日の朝練はとても充実していたな。今日は珍しく赤也も時間通りに来ていたし。俺も遅刻しなかったし。やはり全国大会を控えた今、みんな緊迫しているのだろう。それに対して今日の俺は何だか調子が思わしくないみたいだ。やっぱり朝食を抜いたからかな。でももうすぐ全国大会なんだ。俺が部員達を優勝へ導かなければならないんだ。多少の無理も仕方ない。そう自分に言い聞かせながら俺はユニフォームから制服に着替えた。

***

教室に戻ると俺の机には一つの小さなかばんが置いてあった。俺は不思議に思い、恐る恐る中身を開ける。すると中からは可愛らしいお弁当と小さな紙切れが入っていた。

《最近忙しそうだから何か役に立てないか考えたら、お弁当しか思いつきませんでした。口に合うか分からないけど良かったら食べてね。何でも一人で抱えこんじゃだめだよ! なまえより》

俺は紙切れを読みながら胸が熱くなるのを感じた。特別料理が得意ではないなまえが包丁を握って悪戦苦闘しながらも一生懸命頑張る姿が目に浮かぶ。気が利いていて洞察力の鋭いなまえ。きっと最近の俺の顔色が悪いこととか気づいてたんだろうな。いつもは早弁しないけど、今日は特別。早くなまえが作った弁当が食べたい。今日は部員に頼ってみようかな。なまえの手には恐らく絆創膏が貼ってあるだろうから、俺が消毒してあげようかな。ついでに頑張った御礼に沢山構ってあげようかな。俺は愛情が篭った弁当を食べながらそう考えていた。

可愛いとこあるんだね
(可愛くて君も食べちゃいたいよ)

---------------
(20110321)