後輩たちによく「大学生ってどんな感じですか?」と聞かれるけれど、正味大学自体はそんなに楽しくない、と俺は思う。

高校のときはひたすら憧れを抱いていた大学という場所やけど、実際は。思っていたよりも楽しいというよりは、ひたすら自由すぎて、時間があまって、余暇を持て余して。期待を裏切られた感じだった。高校では授業をサボるだけで先生達はうるさかったし、それがうっとおしかった。けど大学は。講義に遅れても注意もされないし、講義中に出て行っても何も言われない。サボっても誰も困らない。そんな、何でも有りな世界。サークルは楽しいし、飲み会とかも大学生って感じで大人になった感じやけど。せやけど。何かが足りひん…


「せや!彼女がおらんのや!」

「うっさい謙也。声でかいねん」

学食で、中学から部活もクラスも一緒やった腐れ縁の白石と、安くて美味しい定食を食らいながら。俺はついに心のわだかまりの答えを見つけた。

「ずっとひっかかってたんや。暇な時間ができんようにバイトもいれたしサークルもほぼ毎回参加してるし、講義やって寝坊せん時以外は出とるし。それなのに充実してるように感じんかったわけを。」

「その答えが彼女がおらんってことか」

「せや!今まで俺らはテニスに力をいれてきて彼女どころか恋をする暇もなかったやん?」

「それは謙也だけちゃう?俺普通に彼女おったし」

「うっさいわ白石!軽く自慢すんなや!で、本題に戻すけど今、サークルやし人生全部をテニスにつぎこんでるわけではないやん。やから恋愛する余裕が出てきたっちゅーわけや。

やからな、俺は恋愛にも力を入れようと思う」

目の前の白石は呆れた顔でお茶をすすりながら、俺を見てくる。なんやその痛い子を見るような目は。別にいいやんか!俺が彼女ほしいって言ったって!

「別にあかんってゆーてへんし」

「なんやねんお前はさっきから!ええなぁお前は大学生活も充実しとって可愛い彼女もおって!やっぱイケメンは人生勝ち組なんやな!」

「人生も勝ったもん勝ちやからな。まぁ冗談は置いといて…別に無理して彼女作らんでもいいんちゃう?出会いなんて意外に知らんうちにあるもんやで」

本間、なんやねんこいつは。こいつはモテるからそんな事言えるねん。大体モテ方が異常や。大学の入学式からこいつは黄色い声をあげられてた。しかも。講義中に、彼女の、やらしー事を考えてた変態野郎なのに。「きゃー白石君考え事してるー!かっこいー!」なんてコソコソと言われとるんやで?本間、なんやねん。世の中、不条理すぎるやろ。

「お、お前には俺の悩みなんか一生理解できんわ、アホー!!」

そう言って、俺は。講義をサボり、ネオン街へと向かう…わけでもなく。真面目に三限の講義がある教室へと向かったのであった。(誰や今ヘタレ言うたの!)


「…別に謙也やって十分モテると思うんやけどなぁ…」

そう白石が呟いていたことも知らずに。



お昼後の三限は睡魔が襲う。それは大学生どころか、学生全員に当てはまることやと思う。俺はろくにノートもとらずに、ただ、ぼーっとペン回しをして、イグアナ型の消しゴムをいじって、ペン回しをして、の繰り返し。眠気のピークがきたのか、回していたペンが机から落ちて、カチャンと、床に落下。

あぁ、やってもーた。かがんでペンを取る姿勢に変えようとしたその時、前に座っていた女の子の、チョコレートブラウンの髪が。サラッと甘い匂いをふりまきながら、ゆっくりと動いた。



「はい、これ落としたよ」



彼女が振り向いた瞬間。ビビッと、電流が走った。

その反動で、大事な、大事な、イグアナ型の消しゴムも静かに、重力によって床に引き寄せられたのは秘密。











差出人:謙也
件名:(non title)
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本文:う、運命ってやっぱあるんやな!!
人生捨てたもんやないわ!!!!




「…は?」

20120714
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