みんな女は外見しか見ていない。俺の内面を見ようとしてくれない。なら、俺は周囲に合わせるだけ。






「きゃー!幸村君素敵ー!」

俺がにこっとギャラリーに向かって笑顔を作るだけでほら、こんなに喜んでくれる。だからどんな奴にでも笑いかければ女は態度を変えるのだと思っていた。…なまえを除いては。





『…作り笑いを女子達に安売りして楽しいですか?』

予想外だった。丁度美化委員で花の水やり当番が一緒だったみょうじなまえにも同じ"笑顔"で話しかけた。どうせこいつも周りの女と一緒なんだろうと思ったから。なのに返ってきた言葉は俺が予想していた反応とは全く違って一瞬留まってしまった。

『幸村先輩…でしたっけ。自分では上手く笑えてるって思ってるんでしょうけど、私から見ればすごく胡散臭いですよ。平凡で一個下の私にも笑顔を振り撒いて疲れないんですか?』

何なんだこの女。さっきから言いたい放題言って。後輩に言われてると思うと腹が立つ。でもその反面、期待を裏切ってくれて嬉しいと思っている自分がいる。何故か分からないけど、みょうじなまえが面白く感じてきて、俺は笑いが我慢出来なかった。

『なんだ、ちゃんと笑えるんじゃん。良かった』


今思えばこの時からなまえは俺の外見じゃなくて内面を見ていてくれたんだね。優しい微笑みを浮かべながら花に水をやっていた彼女に俺は目を奪われていた。この子なら俺は……









『…ぱい、幸村先輩!』

「えっ」

『もうどうしちゃったんですか。私の家通り過ぎるとこでしたよ!』

「ああ、ごめん」

そうだった。俺はさっき幸恵さんのカフェでこいつに告白して、なまえに好きって言われたんだ。ちなみに聡さんと幸恵さんのカフェを選んだのは素直になりたかったから。昔から入り浸っているからか、あそこにいると俺は唯一子供に戻れるような気がするんだ。

なんだかなまえが俺の事を好きって言ってくれるなんて信じられなくて、思わずなまえとの出会いを思い出していた。

『あの、先輩…』

「ん?」

『これからも私の前では本当の笑顔を向けて下さいね』

「…なまえってほんと馬鹿だよね」


ひどい!と拗ねているなまえが凄く愛おしい。もう俺はなまえがいないと笑えないし楽しくない。お前がいないと俺は駄目なんだ。まあそんな事はなまえには言わないけどね。


「そんなの当たり前だろ」


そう言うとなまえはふわりと笑った。その可愛い可愛いなまえの笑顔も俺だけにしか見せちゃ駄目だからね。なんて頬を赤らめながらお互いに笑いあう俺等。あれ、俺ってこんなキャラだっけ?


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(20110530)
曖昧な終わり方…苦笑
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