幸村先輩に連れてこられたのは、隠れ家的なカフェだった。いらっしゃいませと店の奥に通され、私は窓側の席、向かいには幸村先輩という形で座った。先輩は昔から家族で入り浸ってるんだと教えてくれた。とてもこじんまりしているけど、レトロ且つ上品で懐かしい雰囲気がする。経営しているのはおおらかそうなおじいさんに年相応だけど凄く綺麗なおばあさん。名前は聡史さんと幸恵さんって言うらしい。
『可愛らしいお店ですね』
そう言うと幸村先輩は気に入ってもらえてよかったよと嬉しそうに笑った。
「ここのスコーンがすごくおいしいんだ。なまえもどう?」
『じゃあ私もそれにしようかな』
じゃあ決まりだねと先輩は幸恵さんを呼んでスコーン二つと注文した。
『先輩』
「何?」
『なんかここに来たら雰囲気がガラッと変わりましたよね。一気に優しくなった』
「何それどういう意味?俺がいつも意地悪だって言いたいの?」
やっべ。私墓穴を掘ったらしい。すいませんすいませんと連呼していると周りの人に迷惑だから連呼するのやめろと言われた。やっぱりいつもの幸村先輩だ。
ちょうどその時、幸恵さんがスコーンを運んできてくれた。スコーンは二種類あって、一つはチョコチップが入ったもの、そしてもう一つは何の飾りもなく、いろんな種類のジャムをつけて食べるものだった。
『うわあ、美味しそう!いただきまーす』
私はスコーンを手にとり、ブルーベリーのジャムをつけてを口に運んだ。
『ん…お、美味しい!こんな美味しいスコーン初めて食べました!』
そう言いながら遠慮なくばくばく食べていると、先輩は優しい目をしながら私を見ていた。そんな目で見られると何だか心臓辺りがむず痒いんですけど…!
『…さっきからじろじろと見るの止めてくれませんか』
「いや、美味しそうに食べるなと思って」
口のまわりにジャムついてるよと言って先輩の綺麗な指が私の口元に伸びてきて、ジャムをすくうとそれをぺろっとなめた。
『なっ!』
「やっぱりここのジャムは一味違うね」
このジャムは聡史さんが自家栽培した果物から作っているんだと何食わぬ顔をして教えてくれた。
「どうしたのなまえ、顔赤いけど」
『先輩わざとですよね…』
ふふっと上から笑い声がして顔を上げると、幸恵さんが上品に笑いながら立っていた。
「お熱いわね〜。さっき精市くんが女の子を連れてくるなんて初めてよねっておじいさんと話していたのよ。精市くんに可愛らしい彼女が出来て良かったわ。特別にカモミールティをサービスしちゃおうかしら」
『ちょっ、幸恵さん!』
私は慌てて幸恵さんに誤解を解こうとしたが、幸村先輩はまんざらでもないような表情でサービスしてもらったカモミールティを飲んでいた。優雅だなぁおい!
「まだ彼女じゃないよ。まあでも時間の問題だけどね」
…爆弾宣言。幸恵さんはあらまぁ、私はお邪魔かしらねと笑っていたが、私は唖然と幸村先輩を見ていた。
「馬鹿っぽい顔」
『あぁすみません…ってちがーう!なんですか今の!』
馬鹿っぽいって言ったこと?事実だろと私を見下す先輩。いや、そうじゃなくて…
『か、彼女になるのは時間の問題ってとこですよ!』
私が顔を赤らめて言うと先輩は納得して静かにマグカップをお皿の上に置いた。それだけの動作なのに絵になる幸村先輩はやはりムカつく。
「何、怒ってるの?」
『当たり前ですよ!私をからかう為に連れ出したんです「本気だって言ったら?」……え?』
「俺が本気でなまえの事が好きだって言ったら?」
冗談もほどほどにしてくださいよと言って目を逸らした。衝撃的すぎて笑えない。嘘でしょ、幸村先輩が私の事なんて…
「何で目を逸らすの。俺の目を見てよ」
無理矢理顔を正面に向かされると、そこにはいつになく真剣な眼差しが私の瞳に映った。
「俺は好きなんて軽々しく言う男じゃないよ。本気で君が好きだ」
ばちんっ!朝同様にもう一度頬を叩いた。痛い。私の行動に幸村先輩も目を丸くしていた。告白されてる時に頬を叩くなんてKYだと分かってる。でも確かめずにはいられなかった。
『…夢じゃない』
「ふふっ相変わらず馬鹿だね。それで返事は?」
そんなの、返事なんて最初から決まってる。
『私も…好きで、す』
ちらりと幸村先輩を上目遣いで見ると、先輩は今まで見たことがないくらい大きくふわりと笑っていた。ああ、私、この顔が見たかったんだよね。いつも綺麗に笑ってるけど、何処か胡散臭さを感じていたから。やっぱり先輩って笑うと凄く綺麗だ。
「なまえ」
『はい?』
「俺の彼女(モノ)になったからには覚悟しといてね」
『〜〜っ!』
やっぱり先輩は最後までドSで意地悪で横暴な魔王様だ!
…でも大好きです!
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(20110502)