ばちんっ!…痛い…ってことは、夢じゃないんだ…しかし夢みたいなこの状況に私はただ呆然と立っている事しかできない。

「何してるんだい、早く行こうよ」

『あの…なんで私の家知ってるんですか、幸村先輩』


そんな事はどうだっていいよと絶対零度の笑みを浮かべているこの人は、美化委員会で一緒になった幸村精市先輩である。何故こんな平々凡々の私の家の玄関にいるのか?それは私も分からない。逆に何故いらっしゃるのか私が問いたい。


「おかしいなあ、昨日メールしたはずなんだけど、まさか見てなかったりする?」


びくっ。体中の臓器がいっきに収縮したような感覚に陥った。やばいこの方怒ってるよ…!別にメールを見ていなかった訳じゃない。でも突然《やあ、いきなりだけど明日ちょっと付き合って 幸村》と送られても悪戯だと思うだろう。何せ幸村先輩とアドレス交換した覚えがないし。


『あの、私幸村先輩にアドレス教えた覚えがないんですけど…』


「それなら赤也に教えて貰ったよ。勿論了承済みで」


赤也め…!そういえば昨日赤也からもメールが来ていた。《すまねぇ!》ってこういうことだったのか。つい全然いいよと返しちゃったじゃねーかよ!


『そ、そうなんですか。じゃあ私はこれで』


そう言って玄関の扉を閉めるつもりだった。しかし何故か扉は閉まりきっていなくて隙間が空いている。原因は先輩が咄嗟に足を挟んだからである。その隙間からは幸村先輩の泣く子も黙るような笑みが私を捕らえていた。


「酷いじゃないかなまえ。折角の来客にこんな態度をとるなんて」


『ひっ』


「おまけに勢いよく扉閉めようとしちゃってさ、俺の大事な大事な足がもし怪我でもしたらどう責任とるつもり?ん?」


な、なんだこの人…かなりおっかねえー!ん?とか何処ぞのやくざですか。てか怪我したくないのなら最初から足で扉を挟まなければいいじゃん!まあそんな事は死んでも口外しないけど。


「仕方ないから15分だけ待ってるから早く支度しておいで」


そう言って深い溜め息をはく幸村先輩の表情は明らかに苛々していた。そういえば私まだパジャマだったな。よくこの姿で玄関の扉開けたな自分。そう思いながら階段を勢いよく駆け登った。





なんとか15分で服の選択から化粧まで済ませた私を褒めて頂きたいです。なのに幸村先輩は私を頭からつま先まで見下ろしてふっと鼻で笑った。かっちーん。この人は立海大附属中学校で断トツの人気を得る人、所謂学校一モテる人であり、仮にもその人の隣を歩くのだから少しはお洒落をしなきゃと思って頑張ったのに鼻で笑うって…そりゃないよ。私も一応女なのだからガラスのような繊細な心を持ってるんだよ。そう歩きながら思っていたらいつの間にか先輩と私の間に少し距離が出来ていた。それに気づいた先輩は私のほうに近づいてきてきた。


『!』

「手繋がないと逸れそうだからね」


先輩が笑った。いつもの冷たい笑みじゃない。綺麗に笑った。あーこの人確信犯だ。いつの間にか怒っていたのがどうでもよくなっていた。だから質が悪いんだよ。ほんと…ムカつく。
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(20110429)
ξ^▽^ξ{続くよ!}
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