『ねえ、今日はやたらと騒がしくない?』

友人にそう言うとあんたまじで言ってんの?と目を見開かれた。え、何その表情は。私なんか悪いことしたっけ…。

「今日はバレンタインデーに決まってんじゃん」

『……ええ!!??』


私の声は教室全体に響きわたり、一人注目を浴びてしまった。やっべまじ恥ずかしい。顔の赤みが引いたところで辺りを見わたすと、右も左もチョコチョコチョコ。斜め後ろのブン太なんて椅子にどっかりと座って女の子からチョコを笑顔で受け取り、綺麗にラッピングされた箱を容赦なく開けてバクバク食べている(だからデブン太なんだよ)。その隣の仁王の机の上には山積みになったチョコが今にも倒れそうである。当の本人は屋上あたりに避難したらしい。

あんたよく気づかなかったよねーと友人に呆れられた。だって!昨日の休みを利用して一ヶ月以上貯まっていた数学の宿題約100問を死に物狂いで終わらせたのだ。朝の9時から夜の9時までぶっ続けで解いた私をむしろ褒めて頂きたい。しかしさっきから友人の呆れ顔は変わらず、お前はもはや女ではないとまで言われた。さすがの私もショックで机にうなだれていると、ちょっぴりお腹のはった赤髪が視界に入ってきた。

『…何よその手は』

「チョコに決まってんだろぃ」

「悪いけどこの子女子力のかけらもないからチョコなんて作ってすらないよ」

友人のその言葉を聞いた瞬間目の前のブン太が顔を青くしていた。てかまだチョコ貰おうとしてたのかよ。だからデブン太なんだよ(大事なことなので二回言いました)。

「お、お、おお前!幸村くんの分はどうすんだよぃ!」

そう、問題はそこなのだ。私には付き合って二ヶ月の彼氏もとい幸村精市がいる。普通なら別にチョコを忘れたからって命の危機を感じることはまずないだろう。だか彼の場合は別だ。もし忘れてたなんて言ったら…ああ考えるだけで恐ろしい。氷点下の凍りつくような笑みが頭を過ぎった。

「幸村くん朝練の時になまえからのチョコ楽しみにしてたんだぞ!」

『もうそんな追い撃ちかけるような事言わないでよ!あーほんとどうしよう…』

もう早退しよ…

「もう早退しようかな…とお前は言う」


げっ!そこには黒髪糸目の和風美人、柳蓮二が立っていた。

「お前が今日バレンタインデーだと言う事を忘れている確率は66%だったのだが、まさか本当に忘れていたとはな」

「ほんとだぜ!このままだと俺達の命も危険なんだよぃ!部活の時何されるか分かんねぇし」


まさか私のおっちょこちょいがここまで悪影響を及ぼしているとは思わなかった。ほんと申し訳ないんだけど。うわーもう泣きそうだ。


「まあそんな事もあろうかと策は練ってある」

『「「え!?」」』

「俺を誰だと思っている。王者立海の参謀柳蓮二だぞ」

さ、さすがだ。文武両道の鏡である柳は本当に頭がきれると改めて実感した瞬間だった。いつの間にか友人とブン太と柳は3人だけで何か打ち合わせをしている。何これ放置プレイ?私完全に空気じゃん。寂しく一人で携帯をいじっていると、何故かニヤニヤと笑みを浮かべた友人とブン太と柳が私を囲んでいた。なんか危ない雰囲気…。そこへガラッと音をたてて誰かが教室に入ってきた。

「そういう事なら任せんしゃい」

に、仁王!お前もグルだったのか!



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