金は人間の欲望だ。例えそれが人の命に関わるところでも。現に病室のテレビは時間単位で金額が積み重なっていくし医師は入院する患者の親族を見て、裕福そうな患者には大部屋をせがまれても何かと理由をつけて個室にする。所詮人命救助の場ではあっても結局は金儲けなのだ。扉を開くと無機質な病室ではあるが大人のあくどいやり方がありありと見えて嫌悪感が増した。それとは裏腹に物腰の柔らかい表情で出迎えてくれた精市と病室はどこかアンバランスだった。

「なまえが見舞いにくるのは初めてだね」

まあねと返事してベッドの横にあるパイプ椅子に腰掛けた。そして病院で売っていた花を精市に渡す。精市は綺麗だと言ってしばらくピンクのカーネーションを見つめていた。

「今日のなまえはなんだか機嫌が悪いね」

その嘘か真か読み取れない笑みは余計に私を苛立たせる。じゃあ逆に聞くけど精市はなんでそんなに笑えるの?精市自身であるテニスも奪われて、こんな無機質な箱に閉じ込められて、まるで自由を奪われた鳥だ。なのにどうして笑顔が作れるの。気づけば私の頬から涙が伝っていた。もう何がなんだか分からない。そんな私に精市はそっと手を差し延べた。その手は次第に上昇していき、私の頭を優しく撫でる。彼の手は何故か安心する。大丈夫だからと言ってくれている気がする。しばらくして涙が止まったのを確認するともう今日は帰ったほうがいいと告げられた。結局私は何しに来たのだろう。病院から出た瞬間自分の愚かさを自覚した。ああどうして…見舞いに来たはずの私がどうして励まされているのだろうか。この病院には生きたくても生きられない人々がいる。学校へ行きたくても病気で行けない人々がいる。自分は恵まれているのだ。健康体であるほど幸せなことなんかないのに。精市は私が泣いているのを見て何を思ったのだろう。精市のほうが何倍も辛いのに、寂しいのに、悲しいのに…空を見上げれば雲ひとつない晴天。精市の着ていたパジャマの色を思い出して私は再び空を仰ぎながら涙を流した。

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何が書きたかったんだ…病んでるのかな

(20110127)
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