「今から俺のお気に入りの場所に連れてったる!」

『え?ちょ、ちょっと!』

終礼終了のチャイムが鳴ったと同時に彼氏の謙也は私の席に来て、いきなり手を引っ張ってきた。部活は?と聞くと今日は休みらしい。あっという間に自転車置場についたと思ったら

「ほな後ろ乗って」

『え?!』

まさかの謙也と2ケツ!?駄目駄目恥ずかしくて死にそう!それに自分の好きな人に重いって思われたくない!


『や、やだ!私重いもん!』

「大丈夫やって、俺テニス部やからちゃんと鍛えてんで」

いやいやフォローになってないよ謙也くん!

躊躇して暴れる私を見た謙也。仕方ない、最終手段やと言うと私の体が浮いた。え?これはもしかして…


「抱っこして後ろ乗せたる」

『ぎゃー!!!』

「お前耳元で叫ぶなや!鼓膜破れるやんけ!」

『だっていきなり抱っこするし…絶対重いって思ったでしょ!』

「(全然軽いんやけど…)ああ、もうお前がなかなか言う事聞かんからこんな時間になってしもたがな!」

『ごめん…』

「しっかり捕まっててな、ほな行くで!」合図した瞬間、勢いよく風を突っ切る謙也のチャリ。ていうか速い速い速い!!

「どうやなまえ、気持ちええやろ」

『ちょ、速い速い速い!』

「これが浪速のスピードスターの底力やっちゅー話や!」

『そんなのどうでもいいからスピード落としてー!落ちるぅぅ!!』

「せやからしっかり捕まっとれ言うたのに…」


謙也は文句を言いながらも私の要求通りスピードを落としてくれた。あーほんとに死ぬかと思った。今はキコキコと安全運転をしてくれているが、2ケツになれていない私はしっかり謙也に捕まってることにした。ぎゅっと彼のお腹にしがみついて、顔を背中に埋める。謙也ってやっぱ男の子だな。筋肉で引き締まっているお腹、逞しい背中、そして柔軟剤のいい匂い。ああ、なんだかすごく謙也が愛おしい。心臓の音が背中越しに伝わっていきそう。お互い無言だけどそれすらも心地好い。しばらく目を閉じて風を感じていると


「ついたで!」



謙也のお気に入りの場所は、大阪にしては珍しい自然豊かな川原だった。辺りには小さな花がぽつぽつと咲いていて、小川が流れる音がちょろちょろと響き渡っている。


『綺麗なところだね〜』

「せやろ?ちょうど白石とテニスコート行こうとした時に見つけたんや」

『でもなんで連れてきてくれたの?』

「それはっ、その…あ!ほら、見てみ!」

謙也が指差す小川を見ると、ちょうど夕焼けが水に反射してきらきらと輝いていた。川原もいつもの黄緑ではなくうっすらとオレンジがかっている。

『うわー!すごいすごい!』

「ははは、喜んでくれたみたいで何よりや」

『うん!連れてきてくれてありがとね、謙也!』


おんと言ってそっぽをむいて頭をかく謙也。頭をかくのは照れている印。私だけが知っている彼の癖。

「なまえ…さ、付き合う前に綺麗な夕焼けが見たい言うてたやろ?大阪くる前に住んでたとこみたいな夕焼けが見たいって…ここは都会やし、なまえが住んでたとこよりは劣るかもしれへんけど…大阪もええとこやから」

そうか、だから謙也は…


私は二ヶ月前くらいに大阪に引っ越してきた。田舎者の私はなかなか四天宝寺のノリについていけなくて困っているのを助けてくれたのが謙也だった。謙也はすごく話しやすくて、いつも休み時間になると喋っていた。確かにその夕焼けが見たいと言ったけど、その事を覚えていてくれたなんて…


『ありがとう、謙也。まさか覚えてくれてるだなんて思わなかった。』

「ドアホ!あの時めっちゃ泣きそうな顔してたのはどこのどいつじゃ!」

『いった!デコピンしなくてもいいじゃん……でもほんとにありがとね。私、あの時はちょっぴり故郷に帰りたかったんだ。ホームシックってやつ?でも今はすごく大阪が大好き。四天宝寺も大好き。だって謙也が生まれ育った場所だもん。嫌いになれるはずなんてないよ』


「あーもう!なんでそんなにお前は可愛いんや!」


いきなり抱きしめられてびっくりしたけど、顔が真っ赤な謙也を見たらすごく愛おしくなった。大阪も四天宝寺もこの川原もそして…謙也も何もかも大好き






水面には夕日で照らされた二人の重なりあう影が映っていた



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lovely sunset
=素晴らしい夕焼け
=愛おしい夕焼け
という意味をかけてます。
D.o.S.様から素材お借りしました。
(20110111)
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