「なんや不思議な感じじゃのう」
「…? …なに、が…?」
「んー、まぁ、ワシらがこう揃っとることとか」
ランページの膝の上に座ったトランスミューテイトは、こくりと首を傾げる。きょとんとしたミューの顔が愛らしくて、ランページは慈しみながら彼女の髪を撫でた。気持ちよさげに目を細めるミューの、普通の子供と同じ行動に、更に愛しさが募る。
と、ミューが顔を上げた。視線の先には、青い髪の偉丈夫が。
「帰ったぞ」
「お、おか…え、り…!」
「なんじゃ、早かったの」
「ミュー、良い子にしていたか?」
「ワシは無視か、ワレこら」
デプスチャージの帰宅に、ミューの周りに一層花が飛んだ。ランページの幻視だが、間違ってはいないと彼は思っている。恐らく、今しがた帰宅したデプスチャージも。
「ミュー…い、い…こ…だよ…」
「やはりな、流石だミューテイト」
ひょいと軽く抱き上げられ、頬擦りを受けるミューの顔は無表情ながらも嬉しげで、こちらまで嬉しくなる。そして、その頬擦りをしている側の緩んだ雰囲気にも、また、幸福を感じた。データの中でしか見たことのない、家族という事象。それが目の前に、しっかりと存在している。
ずっと殺し合ってきた存在に、心を寄せていることに気付いたのは何時だったか。その張り詰めた雰囲気を、壊したいと思ったのは何時だったか。その不確かな願いは、唯一愛しいと思ったか弱い少女のおかげで、現実となった。感謝してもしきれない。今では宿敵は妻で、少女は娘だ。こんな形で夢が叶うなど、誰が想像できただろう。
そうにやけていると、デプスチャージから剣呑な視線を向けられた。
「何を気持ち悪い顔をしている」
「うっせ、もっとワシを労われや」
「それは無理な相談だな」
「つれない嫁じゃ」
「っ…馬鹿者!」
一見すると物々しい会話も、ただの夫婦のコミュニケーションである。それを知っているミューは、己の母となったデプスチャージの腕の中で、父となったランページを見詰めながら、ふわりと微笑むのだった。
三人は、確かに、幸せである。
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とあるお方に捧げたもの
2013/02/06