アンタは馬鹿ザンスね。

 聴覚センサーを震わせる、甲高い声。いつもいつも小うるさい、相棒の声だ。空を見やればふわりと舞い降りてきた。相変わらず、気取ってやがる。だが、目が離せない。柄にもなく、美しいと思っているからだ、こいつの飛翔と着地は。

「ダー、いきなりなんだ」
「いきなりじゃないザンショ。ミーはいつも思ってるんザンス。アンタは本物の馬鹿だって」
「へっ、おめぇに言われたかねェな」

 地面に座り、高台から星の繁華街を眺めていた俺の隣に、テラザウラーは並び立った。排気音と共に差し出されるエネルゴンキューブ。一瞬迷ったが、受け取らねばまたぎゃんぎゃんと当り散らされる可能性を思い出し、静かに貰い受けた。また、排気音。

「また、刃向ったんザンショ」
「勝てると思ったんだよ」
「時期を見計らえっていっつも言ってやってるのを、忘れたんザンスか?」
「忘れた」
「……呆れた馬鹿野郎ザンスね」

 がり、エネルゴンキューブを一噛み。エネルギーが疲れた機体に染み渡る。うめえ、呟くと、睨まれた。舌打ちの音までする。どうやら相棒さんは、余程のご機嫌斜めらしい。めんどくせェ。

「んだよ」
「べっつにー」

 がりがり、またエネルゴンを齧る。もう半分以上を食べてしまい、なにやら味気ない気分に駆られる。これを食べ終えてしまうと、相棒がどこかに飛び去ってしまう気がするからだ。このまま苛ついている理由も分からずに、もやもやとした心地を引きずったまま基地に帰るなんて、寝覚めが悪い。ふと隣を盗み見る。テラザウラーは腕組みをしながら、繁華街を眺めていた。時折指がトントンと苛立ちを表すように鳴らされる。今度は顔ごと目を向けると、視線がかち合った。

「……」
「……」

 居心地の悪い、無言の空間。思わず、同じタイミングで顔を逸らした。

「……腕」
「あァ?」
「…後で、リペアしてやるザンス」
「……ダー…、すまん」
「謝るくらいならしないで欲しいザンス、ミーがやり辛くなる」

 急に、腕がずきりと痛んだ。メガトロンのカノン砲をまともに受け、繋がっていることが奇跡のような状態だったのだ。それを無視してこの高台に居たのは、タランスのリペアを受けたくなかったのと、

「…何を笑ってるんザンスか」

 この素直でない相棒の、気遣いが見たかったからだ。そして怪我を思い出したことで痛みがぶり返し出した。流石にこのままでは俺が危ない。また、容赦ない舌打ち音。やはりというか、機嫌が悪かったのは俺の状態のせいらしい。

「ダー、帰るか」

 がりがり、最後の欠片までもエネルゴンキューブを噛み砕く。力が湧いてきた。恐らく基地までは体力は持つだろう。ふと、隣から風が吹いてきた。見上げると相棒がふわりと空へ飛び立っていた。優雅にジェット機構を操る姿はやっぱり美しくて、見惚れそうになる。
 早く来るザンス、零された音は存外に優しく響いた。少しは怪我人を労われ、そう言いながら踏み出した足取りは、軽かった。



 銃を向けられ、剣を向け、それでも思い返すのは懐かしい故郷の光景。袂を分かち、やっと気付く。ああ俺達は、幸せだったのだと。だが、それに縋ったりはしない。命乞いなんて以ての外だ。
 ただ思い出だけを内に秘め、今日も俺達は殺し合う。さらば愛しき紅の君よ。
2013/02/06
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -