娘の彼氏とやらの映像を再生する。
脂肪分の少ない、筋張った運動器官をしていた。
有機物の組織構成はよく知らないが、あれはとても健康的な状態なのだろう。

翻って、ケイドを見やる。
筋肉と呼ばれる運動器官は彼氏と同程度もしくはそれ以上はあるのだが、如何せん腹周りに脂肪が蓄積されていた。
彼氏よりも腹が出ている。
腹だけでなく太腿周りも少し脂肪が付いている状態だ。

「おい、ケイド」
「何だ、作業中だから洗車は終わってからに…」
「お前のこれ、ヤバイんじゃね?」

つん、と、腹をつついた。
ケイドの動きが止まる。

「腕はまぁ、いいとして。ここだけぽっこりしてるし、お前筋肉あんのにデブなの?人間ってデブすぎると死ぬんだろ」

つんつん、更につつく。
ケイドは無言のまま、時が止まったかのように動かない。
おいおい、反応しろよ。
俺が一人で喋ってるみたいだろ。

「おーい、ケイドー?聞こえてんだろ…」
「…俺はそこまで年食ってねえ!」
「はあ?」

急に動き出したと思ったら、ギンとこちらを睨み付けてきた。
意味が分からん。
年食う、ってなんのことだ。

「俺は鍛えてる方だ!ビールは確かに好きだが中年太りはしていない!絶対に!くそう!!」
「おいおい、落ち着けよ」
「落ち着いてるさ!あぁ落ち着いてるとも!」

腹を片手で隠しながら机蹴られても説得力ないぞ。
ええー、なんでこんなに荒れんだよ。

「すまん、よく分からんが俺が悪かったよ。テッサの彼氏よりは太いけど、あいつは…」
「アイリッシュパブ、より?」

あ、やばい。
何かスイッチ入れちまった。
逃げよう。
よし逃げよう。
面倒事は嫌いだぜ。

「……俺、用事思い出した」
「クロスへアーズ」

地の底を這うような声が、ケイドの口から落ちる。
足がその声に縫い止められて、動けない。
俺よりも何メートルも小さいのに、そこに籠められた威圧感は司令官が激怒したときのそれと全く同じだった。
そして死刑宣告は下る。

「お前、一週間飯抜きの一ヶ月洗車なしな」
「な、あ!?ま、待てよ!そんな、無茶だ、」
「あ゛?」
「俺、そんなひでぇこと言ってないだろ!?」
「お前は俺の繊細な心を無遠慮な発言で傷付けたんだ。家主の命令に従えないなら一ヶ月のKSI出張だって辞さないぞ」
「はあああ〜〜!?」

何で俺があの禿げんとこに行かなきゃいけねぇんだよ!
あいつんとこの会社、大ッ嫌いなこと知ってるくせに!

「俺は中年太りなんてしてない…断じてしてない…絶対にだ…!」
「…人間ってめんどくせー」

あーあ、どうやったら機嫌直るんだ、こいつ。






「ふぅん、だからパパってばあんなに怒ってるのね」
「そうそう。全く、クロスへアーズにも困ったもんだな。おっさんは傷付きやすいもんなんだぞ」
「ハウンドもそうなの?」
「そうさぁ」
「そっか、大変ね。…中年太りを気にしてたことは初耳だけど、シェーンと比べられたから余計にムカついたんでしょうね」
「だろうな。ま、俺は面白いから放っといていいと思うけど」
2014/09/21
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