*ロリババァウルマグさん







貴女は美しい。

有能な人材を口説き落とすのと同じ真摯さで、若い男は言う。
それを受けて、淑女は淑女らしい微笑みで返した。

君のような若人にそう言って貰えるなど、僥幸だな。

歌う鳥のごとき軽やかさをもってして淑女は言う。
若い男は少しだけ眉を動かし、そして常と戻して話し出す。

貴女は王冠に頂く大粒の金剛石のようだ。きらりと輝き、透明な美しさは人々を魅了して離さない。貴女は私の心を一欠片も残さず奪い去った。

騎士の礼儀を持ってして、若い男は淑女の前に跪く。
それは、どこか求婚の儀にも似ていた。

貴女の為ならこの命、捧げても惜しくはない。いいえ、既に私の命は、心は、貴女の物だ。

淑女を見上げる瞳に迷いなど一つもない。
若い男はその青き輝きごと、淑女に全てを捧げようとしていた。
淑女はただ静かに、若い男を見詰めている。

君、は。

淑女の重い口が開いた。
鈴を転がすような声で、淑女は音を紡ぐ。

私のような老いぼれではなく、もっと別の頂を被りなさい。こんな重く、年月だけ過ぎ去った物は、君に相応しくない。

淑女の言葉は、若い男へまるで死刑宣告のように響いた。
己の想いを籠めた音と、わざと似せた音を持って淑女は私に諦めをもたらそうとしている。
そう気付いたとき、若い男に訪れた感情。
それは。

貴女は、なんという嘘吐きだ。

若い男の手が、淑女の身体を引き寄せる。
小さな身体は若い男の体にすっぽりと収まってしまった。
目を見開き、淑女は狼狽える。
我が身に何が起こったのか、分からなかった。

貴女も、私が貴女を必要としているように、私が必要なのでしょう?隠そうとしても、無駄ですよ。私がどれほどの年月を貴女を見詰める為に捧げたとお思いで?

若い男の体は震えていた。
それがどのような感情によって引き起こされているのかは、男自身にしか知り得ない。
ただ、淑女には、その震えが愛しかった。
嗚呼、お見通しだったのだ、と。
嗚呼、その見栄ががどうしようもなく愛おしい、と。

そう、か。

そう、です。

お前は、私が必要なのだな。

ええ、ええ。私には貴女が必要なのです。私の心は最早貴女という存在がなければ成立しないのです。私の女神、私の半身、私の心。それは貴女だ。貴女でなければならないのだ。

若い男の、震える背に、小さな手が添えられる。
それはゆっくりと男の背を撫で、次第に熱を持った。
その熱が、若い男には心の灯のように思えた。

負けたよ。

淑女はぽつりと呟いた。
何を意味するかは、若い男にはすぐに分かった。
何故だか涙が零れそう。

ロディマス、私の可愛い弟子。私の希望。この星の先を導く者よ。

淑女の言葉はいつ何時でも若い男に響く。
だがこの度だけは、特別な意味を孕んでいた。

私は、お前の未来を愛しているよ。お前を、愛しているよ。

他人行儀な飾りが取れ、そのままに紡がれる旋律を、若い男は有り難く賜った。
何故ならばそれは、淑女が己にだけ見せる本当の彼女だからだ。

私も、私もです、ウルトラマグナス。貴女を、貴女の未来も、過去も、全て、愛しております。

もたらされる口付けは、婚姻の誓いに、似ていた。
2014/07/20
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