*プレライ後のネタバレ有り









暗い夜道を一歩一歩、一人きりで進まなければならない。
そんな気分だった。




機体の損傷率は70%を超え、あと一刺しで死への階段を駆け上る。
目の前にあるのは三体の古代の遺物。
それらを作り上げたのはこの組織で、俺はそれを掴んだつもり、だった。

「もう終わりか」
「あっけねーの」
「死ぬのか? やわだなァ」

見下ろす立場になったと思えばこれだよ。
俺の人生って、一体なんだったんだろうな。
あくせく研究して、掴んで、否定されて、離反して、加わって、裏切って、お情けで生かされて。
俺の物語の主役は俺のはずだろう。
なのにどうして、こんなにも報われずに終わるんだ。

「ますたー、おれ、なんでいかされてたんですか」

発声回路は私刑の初めの方で砕かれた。
今はもう、雑音と変わりない音しか出ない。

「ますたー、おれ、あなたのためにいきのこったのに」

アイカメラは光を感じることぐらいしか機能しなくなったし、聴覚センサーはノイズとシャットダウンを繰り返している。
何よりも痛覚を切るセンサーまでぶっ壊れたことが辛かった。
四肢のどこもかしこもが痛い。
ブレインに過負荷がかかって、エラー表示がそれこそ天体図みたいに展開されている。
それでもサーキットが描くのは、あの人の姿ばかりなんだ。

「ますたー、おれをおいていかないで、ますたー、ますたー」

末端が冷えて感覚がない。
流れ出るエネルゴンが情けなく床に広がるのを、眺めているしか出来なかった。
多分、もうオプティックさえ動かないだろう。

「めがとろんさま」

俺は、どうして、生きていたのか。

「…二人とも、離れていろ」
「えっ、なんでさ!?」
「どうしたんだよキング、急に」
「…私はこれと、話さなければならないことがある」

明暗を繰り返す視界を拾い上げたのは、太くて逞しい腕だった。
ああ、俺はこれを知っている。
とても懐かしい感覚だ。

「めがとろん、さま、ますたー、もどってきたんですか?」

手を伸ばすだけで、亀裂が生じ神経配線は火花を散らす。
それでも俺は触れたかった。
俺の愛しい人に。

「ますたー、ますたー、おれ、あなたがいればそれでいいんですよ」

ノイズが酷い。
痛みで思考が霧散する。

「ますたー、おれをすてるなら、ちゃんところしてください」

あんなにも勇猛果敢で策士で、格好良かった貴方が、戦いを放棄するなんて、嘘ですよね。
俺、何度も何度も試合を見に行ってたんですよ。

「あなたにころされるなら、ちゃんとしねるきがする」

どうせ死ぬ命。
最期くらいは、貴方の手で。

「ますたー、めがとろんさま」
「黙れ」

言葉とは裏腹に、喉元に添えられた手の優しいことといったら。

「お前は、我が同胞を何度も甚振り、苦しめた。その対価は払って貰わねばならない」

マスターの言っている意味は、センサーを遮るノイズの前にはあまり理解できなかった。
もっとも、ブレインも役には立っていないが。

「お前を殺すのは簡単だ。だが、それだけでは我らの気が済まない。生かしてやる。死を望むお前に、それは最も重い罰となるだろう」

もげた羽の付け根を撫ぜる指が、とても暖かった。
体が床から離れる感覚がした。
逞しい腕に、抱えられたのか。

「精々、我らの役に立て」
「マスター」

強制シャットダウンまでのカウントダウンが始まった。
光はもう感じない。

「愛してましたよ」
「…そうか」

全ては藪の中。















「これはまた、変わったものを背負い込んだな」
「だよなー! 俺も止めとけって言ったんだぜぇー」
「キングがそうしたいって言うんだ、仕方あるまい」
「あれを手懐けるのは難しいぞ、ショックな出来事でもない限りはな」
「キングの好みがわかんねーよ、俺」
「俺は初めから気にしないことにした」

「うるさいぞ外野」

2014/06/26
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