堪えきれず吐き出した胃の中身が廊下に散らばる。
汚い、気持ち悪い、何が、自分が。
ブレインが勝手に記録を再生するにつれ込み上がる吐き気。
空っぽの内蔵は出すことを望んでいる。
辛い、苦しい、もう嫌だ、何が、自分が。
ドレン水のような物がこぼれ落ちた。
知らず泣き出す。
何で、俺ばっかりが、こんな目に。

「どうした、ロングアーム!?」

その名を呼ぶな。
それは俺ではない。
お前たちに合わせて作り出した仮想に過ぎない。

「大丈夫か、すぐに医者を、」
「いい、です、すぐ治りま、す」

見上げる先にあるのは、青い大型機。
我が愛しき主と近い大きさの、敵方では珍しいその機体。
彼の腕に触れた手指の感触が、懐かしかった。

「しかし、」
「いい、んです、いいんです総司令官」

消化液が喉を焼き、発声回路が故障しかけている。
掠れ声が相手を油断させるならそれで良かった。

「おねがいが、そう、司令」
「なにかね? やはり医師に診てもらったほうが、」
「寄り、か、からせて、ください」

愛しき主を幻視する。
名を呼んでしまう。
それだけは避けなければならない。
俺の正体が露見すること、主の考えが敵方に漏れることはあってはならないのだ。
こいつが、こんなにも大きくなければ偉大なる主を連想することなど有り得ないのに。
腹が立つ、苛つく、悲しくなる。

総司令殿は、無言で肩を差し出した。
ずるり、ずるりと動きづらい足を、無理して移動させる。
もたれ掛かった肩の大きいこと。
ああ、ああ、我が敬愛する主よ。
貴方は何処に。
俺を残して、どこに行ってしまわれたのか。
紫航空機のいけすかない顔を思い出し、また吐き気。
総司令殿は、やはり無言で、俺の肩を優しく抱いてきた。
その温もりに、涙がこぼれそう。

(メガトロン様。貴方が恋しい。)
(ここは、地獄のようだ)

右も左も、己が正しいと思っている者ばかりで、俺のようなあの星出身の者のことなど気にもかけていない。
そうだ、こいつは、マグナス。
“マグナス”だけは、許してはならない、のに。
それは俺たちを貶めた存在の証の名。
引き継がれていく断罪の名だ。
なのに、こんなにも温かい。
ああ嫌だ。
この微睡みが、空しい、悔しい、気持ち悪い。

「ロングアームよ」
「なん、でしょう、か」
「無理は、するな」

無理、なんて。
お前は何も知らないくせに。
お前は同胞がもう居ないことも知らないくせに。
お前は、マグナス、のくせに。

「…はは、善処しま、すよ」

募る恨みと憎しみ。
俺は、

(お前が憎い、ウルトラマグナス)

すえた匂いの広がる廊下で、大型機に身を預ける若き情報長官の、心の内を知る者は居なかった。
ただ、その額に映える赤だけが、爛々と光っている。

2013/12/10
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