かちゃかちゃ、がちゃがちゃ。がさごそ、がさごそ。
作業音ばかりが、部屋にある。一人は床に座って、一人は寝台の上で。片方は銃身や刀身を磨いていて、もう片方は缶詰から煙草を取りだしている。
「なぁ」
「ん」
銃身を整備していた女が、片割れに声をかける。どちらも互いを見向きもしない。
「それ、まだ吸えねぇの」
「もうちっとかかるな。しっかり詰めねぇと味が逃げる」
「ふぅん」
ことり。銃が床に置かれた。伸びを一つ。
「普通さぁ、買ったっばかりの煙草がバラけてるとかアリなのか」
「俺が知るかよ」
「…」
振り向きつつ、上目に相手を見やる。鍛え上げられた体は、意外と細かい作業が得意だった。
「なんだ」
煙草にのみ注がれる視線に、少し、嫉妬のようなもの。
「別に…なんでもねぇよ。早くそれ吸ってくれ」
「は?」
アストロの視線が、ようやくブリッツに向いた。
「お前がそれ吸ってるの見るの、好きなんだよ」
ベッドの縁に、拗ねたままもたれ掛る。ブリッツの視界に入るのはアストロの逞しい脚ばかり。
「…可愛いやつ」
するり、ブリッツの頭を撫でる掌。甘えるために、そのまま擦り寄る。
ボッ。火のつく音。ぱちぱち。丁子の油脂が燃える音。部屋中に広がる、先程までとは比べ物にならないほどの、甘い匂い。
「…アストロぉ」
「ん?」
茶色い巻紙に映える白い指。そのまま、赤い唇がフィルターを挟みこんで、にやりと笑う。くゆらせる紫煙は、怪しげなほどに彼女を彩る。
「キスしてくれ」
寝台の縁から見え隠れする豊満な谷間が、欲を刺激する。バイザーを外し素のままの瞳が、あまりにも可愛らしくて。
「こっち来い」
火をつけたばかりの煙草は、既にお役御免となってしまった。甘やかな声と煙に、空間は支配される。
2013/11/16