*ツイッターでお世話になっているキョーちゃんに捧げる
*捏造ドリフトさんと幻の4期設定






空っぽの空に、潰されそうだ。

遠征から、ようやくの帰還。
延々と続いていた僻地抑留が終わったのも、とある有機物で溢れる星に駐留していた部隊が、あのメガトロンを捕縛したから、という報告が入ったからだった。
ひどく安心した。
そして、虚しかった。
俺の運命を狂わせた存在が、こうもあっさりと捕まってしまうのか、と。

俺の愛しい人は、ディセプティコンとの戦争のため犠牲になった。
大いなる知識を得る為に、我々を知識生命体たらしめている『感情』を、取っ払ってしまったのだ。
俺に一言の相談もなく。
ただ一人、その決断をした。
あれのことは、今でも愛しい。
感情がなくなろうとも、生きているだけで十分だ。
そうは思っても、空っぽの空と変わりない瞳を見ると、悲しみが溢れだしてくるのは致し方ないだろう。

パーセプター。
お前の元に帰るのが、とても、怖い。



傷だらけの大型船を迎える群衆は、皆晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。
それもそうだろう。
ディセプティコンの総領は捕縛され、残党たちも粗方捕まっている。
平和を脅かすものは居なくなったのだ。
青く光る瞳たちは、汚れなく輝いている。
方々から聞こえる「おかえり」の声。
俺みたいな傭兵崩れにまでこんな歓声が来ること自体は、とんでもなく有り難い。
でも、そこには俺が一番それを言ってほしい相手は、居ない。
俺とはもう、あまりにも身分が違いすぎる。

「ドリフト!」
「ブラー! それにブロードキャストか、久しぶりだな」
「お帰りお帰り長い間待っていたよ君ともう一度生きて会えるなんてとても嬉しいし誇らしいね僕らの大事な友人の華やかなご帰還だよああ久しいねとても久しい君が生きていて本当に良かった!」
「すまんブラー、半分も聞こえなかった」
「いつものことさ、仕方ないよ。それよりもドリフト、本当によく生きて帰って来たな、オレッちとってもゴッキゲンになっちまうよ!」
「ありがとう、ブロードキャスト。俺も二人に会えて…本当に嬉しい」

古くから友人が迎えてくれた。
相変わらず早口のブラーに、陽気な笑顔の似合うブロードキャスト。
ざっと千年は会っていなかっただけなのに、こんなにも久しぶりだと感じるのは、きっと俺が感傷に浸っていたからだ。
ああ、でも。
この二人の感情の豊かさが、なんとも得難いものに思える。

「あのねドリフト君に伝えなくちゃいけないことがあるんだとっても大事なことなんで真面目に聞いてほしいこれは君の為であるんだよ!」
「おっと、そうだった。忘れるところだったぜ」
「どうしたんだ二人とも、そんな畏まって」

急にブラーがキリ、と神妙な顔を作って話を振ってきた。
ブロードキャストもそれに同調する。
一体、何があった?

「君のことをずっと待ってる人がいるんだ」
「例のあそこでさ。アンタならきっと分かるよ」
「いいかい、これは友人としてのアドバイスでありお願いだ」
「茶化すなよ、絶対に」
「彼に会いに行って」
「んで、全部ぶちまけてこい」
「戦争は終わったんだ」
「もう悩む必要なんて、ないんだぜ」

瞬間、わき目もふらず駆け出す俺が居た。
走っていることに気付くとすぐさまトランスフォームし、更に加速する。
目指すは科学庁。
そこに、あいつがいる。
バックミラーには、晴れやかな笑顔で俺に手を振る友人たちの姿。
ありがとう、友よ。
あとで酒オイルでも礼として奢ってやらないとな。



以前は何度も通い詰めた科学庁。
あまりにも変わっていない外観は、昔を思い出させるにはうってつけだった。
出会った頃はそこまで高い地位に居たわけでもないのに、あれよあれよと出世し、最後には顔を合わせることさえ稀になった愛しい人。
記録に残る笑顔の再生は虚しいだけと止めていたが、今は少し。
希望が、見え始めている。

受付に向かう足取りの軽さといったら。
きっとこの星に降り立った時よりも軽やかだろう。
ああ、もうすぐだ。
もうすぐ、会えるんだ。

「…ドリフト?」

聞き間違えるはずもない、声。
出会った時と、同じ声。
子供みたいに高くて、でも知性を感じさせる声。
機械音声なんかじゃない、本物の。

「…パーシー?」

受付の奥、職員用の通路に、見覚えのある赤がいた。
小柄で、撫でやすい頭部をしていて。
俺みたいに戦闘用の装甲なんて一つもない、薄っぺらい機体。
それでも頼り甲斐のあった、機体。

ガタガタとデータパッドの落ちる音が廊下に響く。
それを俺達は共に無視をした。
走り寄ってくる愛しい人。
ディセプティコンとの戦争が始まり、彼が感情を削ぎ落したその日から。
俺は何度、この光景を夢想しただろう。
現実だ。
これは、現実なんだ。
小さな体をひしと抱き留め、腕の中に閉じ込める。
熱暴走でも起きているのか妙に熱い機体と、冷却水の放出が始まったオプティックを、全て、全て。
俺の物だ。
俺の、愛しいパーセプター。

「おかえり、ドリフト」

ああ、パーセプターが、涙を流している。
俺の帰還を、喜んでくれている。
もうあの人形じゃないんだ。
すぐ笑い、すぐ怒り、すぐ泣く、俺の知ってるパーセプターなんだ。
戦争は、終わったんだ。

「ただいま、パーセプター」

堪えきれない冷却水が、溢れてくる。
衆人の前だとか、もうそんなことは関係ない。
むしろ見せ付けるべきだ。
だって、ようやく会えたんだ、俺たちは。
もう離さない。
何があっても、絶対に。
おかえり、おかえり。
やっと、戻ってきた。

空っぽの空は、ようやく満たされた。

2013/10/23
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