重い足を引き摺り、廊下を歩む。
久し振りに帰ってきたセイバートロン星は、変わらずに美しく、我々を出迎えてくれた。
戦勝報告に、足りない物資の補填、エネルゴンの補充、最新医療による定期検査、議会への謁見…一日では多すぎる仕事をこなしたと我ながら思う。
隊員は其々休息を取らせ、自分はこうして、ある場所へ向かっている。
皆からようやく会えますね、と軽口を叩かれるほどに知れ渡っている相手の住まいへ。

扉の前に着いた。
声紋を取られ、数秒後にはすぐに開くと分かっていても、逸る気持ちは抑えられない。
早く会いたい。

部屋のなかは相変わらず、手入れが行き届き、さっぱりとしていた。
派手な調度品はなく、そこかしこに置かれた物は年季の入った古い家具だけ。
だが、私は家主のこういう感覚が好きだった。

「おかえり」

部屋の奥、寝台の上から声がした。
低くて、暖かくて、威厳のある声。
オートボットの尊敬と羨望を集める、私の愛しい人。

「ロディマス・プライム、帰還しました」

本日二度目となる帰還報告に、相手は何故か渋面を作る。
手招きのもと、側に近寄ると寝台に上げられた。
並んで座り、存外に近付く渋い顔。

「ここは私の部屋だ。周りには誰も居ない。…だから、つまり…」

視線が彷徨う。
右へ、左へ、行ったり来たり。
そして、なぜそんな反応をするのか分かってしまって、少し、嬉しかった。

「ただいま、ウルトラマグナス」

万感の思いを込めて、言う。

「…おかえり、ロディマス」

ぎゅっと、抱き付いた。
そのまま反転して、ウルトラマグナスの大きな体にすっぽりと納まる。
室温と溶け合う機体熱。
太い腕。
逞しい太股。
男ならば誰もが憧れる、オートボットの砦。
早く追い付きたくてたまらないが、今は一先ず戦士としての感情は置いておこう。
ウルトラマグナスも、それを望んでいる。

「息災だったか」
「ええ、お陰様で。あなたは?」
「私もさ」
「良かった」

腹に後ろから手が回る。
密着する体に、微睡みのような温度は眠気を誘った。
うと、うと。
知らず船を漕ぎ出してしまう。
なんて安心できるのだろう。

「寝てしまいなさい」

いやいや、と首を振る。
まだ意識の覚めたまま一緒に居たいのに、スリープしてしまうなんて勿体ない。

「まだ…起きてます…」

回された腕を、ぎゅっと握る。
こういうことをするから、彼の私に対する子供認識を取り払えないのだろう。
だが、口も回らなくなってきている私に、彼を納得させられるだけの答弁が出来るとは到底思えない。
ここは素直に、己が思うままに行動するのが最善だろう。
手を強く握り直した。
体をもっと密着させる。
彼の駆動音まで聞こえてきそうな近さだ。
胸部に顔を寄せ、ぺたりと張り付いた。

「ウルトラマグナスぅ…」

情けない声が漏れた。
まぁいいか。
とりあえず今は、密着できる幸福を甘受しておこう。

ウルトラマグナスの片腕が、私の機体を撫でるように、ぽんぽんと叩く。
一定のリズムを持つそれは、子供をあやすものそのままで。
なんだかもっと眠くなってしまった。
すりすり、頭を寄せて座りのいい場所を探す。

「……かわいい」

瞬間、ブレインサーキットが覚醒する。
それまでスリープモードへ移行準備を取っていた回路が、急激に動き始めた。
くるり、体を転換して、ウルトラマグナスと向き合う。
彼は私の行動に、きょとんと瞠目していた。

ちゅっ

不意に背伸びし、彼の唇を奪う。
舌も入れない児戯のようなものだが、彼の意識を奪うには事足りた。
カメラアイが見開かれるのを、にやにやした気分で眺める。

「貴方の方が、可愛いですよ」

囁けば、彼の駆動音は私に聞こえるほどの音量になり、機体熱が上昇していくのが分かる。
彼はそのまま両手で顔を覆い、うー、だとか、あー、だとか、言葉にならない声を上げた。

「痴れ者め…」
「ふふふ」

そのままゆっくり、彼を寝台に沈めた。
眠気など、後回しだ。

2013/07/15
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