「ねぇ、ブラザー」
「なんだい、ブラザー」
「僕、好きな人が出来たんだ」

双子の兄弟の言葉に、寝台に横たわっていた体を無理やり起き上がらせて、床に座り寝台を背もたれにしていた彼を見た。
足を三角に組み、指を膝の上で覚束なげに組んだり開いたりする兄弟は、いつになく真面目な顔をしている。

「マジ。誰?」
「地球のさ、オプティマス部隊の、こわーい赤いお医者さん」
「うっそーん」
「それが本当なんだよブラザー」
「そこに行くとは思ってなかったぜブラザー」
「僕もだよ、ブラザー」

はぁ、溜め息。
ずりずりと寝台の側面から滑り落ちていく兄弟。
これはもしかして、本気の本気?

「なんであのおっさんなのさ」
「分かんないよ、僕もずっと考えてる」
「ダメじゃん」
「知ってる」

こちらから顔は見えないけど、きっと不満そうな表情をしているのだろう。
指が作る膝を叩く音は、コツコツと鳴りっぱなしだ。

「おっさんさぁ」
「ん?」
「ずーっと、片思いしてるんだって」
「ありゃ」
「しかも僕達が組み立てられる前から、今も」
「勝ち目ないね」
「そう。どうしよう、ブラザー」

どうしよう、と言われても。
兄弟自身が分かんないことを、僕が分かるわけないじゃん。

「分かんないよ、ブラザー」
「……だよねぇ」

くてん、頭が本格的に膝に落ちた。
指はもう音を鳴らしていない。
悩んでいるであろう兄弟の様子が本当に落ち込んでいるように見えて、僕は思わず頭を撫でていた。

「あのね、ブラザー」
「どしたの」
「僕、恋ってもっと楽しいもんだと思ってた。でもさ、実際はさ、ちっとも楽しくない。どこにいたっておっさんのこと考えちゃう。子供扱いがほんとにやだ。僕はおっさんと同じステージに立つことさえ出来ないのかって、もう、」

……んん?
なんとなく違和感。
なんだろ、この、噛み砕いたエネルゴンが歯に挟まった感じ!

「ねぇブラザー」
「なに」

あらまぁイケメンぶりが台無しのぐずぐず泣き顔。

「子供扱いされるくらい、おっさんに会いにいってるの?僕と、センチネルサーにも内緒で?」

あ、黙った。
ゆっくりと顔逸らすの止めなよ、ブラザー。

「よく今までにバレなかったね」
「……ジャズサーが、手引きしてくれてるんだ…」
「あー」

何でも出来るイケメンジャズサーだもんなぁ。
そりゃ色々とちょろまかしたり誤魔化したりなんて、楽勝そうだ。

「ジャズサー、おっさんともうすっごい仲良くて、僕、応援してくれてるのに、ジェラッちゃってさ」

不意に兄弟が、情けなく笑う。

「おっさんの一番になりたいだけなのに、上手くいかないなぁ」

ほろり。
止まったはずの涙が、また落ちる。

「おっさんの、渋い声が好き。口の悪いところが好き。素直になれなくてすぐ顰めっ面しちゃうところが好き。仕事してる時の真っ直ぐな顔が好き。優しい手付きが好き。悪を許せないところが好き。心配し過ぎて怒っちゃうところが好き。好きな人を見詰める、暖かい目が、大好き」

ぼろぼろ、溢れて溢れてくる涙の洪水。
止めてあげたいけど、それが出来るのは僕じゃないし、僕だったらいけないんだ。

「恋なんて楽しくないよ、何にも楽しくない。でも、でも、おっさんに会えなくなるのは、もっと、やだ」

ひっくひっくと泣いてばかりの兄弟。
いつの間にか僕らは、一揃いじゃなくなったんだね。
でも僕たちは別々なんだから、これはある意味必然だったんだ。
僕はまだまだ恋なんて分からないけど、一足先に大人になったファイアは、カッコ悪いけど、カッコ良かった。

「僕を見て欲しいんだ。エリートガード初級隊員じゃない、初の飛べるオートボットではない、ただの僕を」

ついに床に伏して泣き出したファイアを、僕は見守ることしかできなかった。

2013/07/13
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