*ロングアーム長官がシーメール
*前半はミラージュさんが主役
*クリフジャンパーが攻めです





オートボット、エリートガード部隊は、酔っぱらっていた。
本日は無礼講の飲み会、ということで酒オイルがそこら中に転がっている。
今は何次会なのだろう。
一番の権力者である総司令はとある部隊司令官と共に二次会の時点で既にお帰りになられたので、この惨状を止める者は誰も居なかった。
ウワバミであるミラージュは酔っぱらう同僚たちを尻目に、溜息を吐く。

特にひどいのが我らがあかん大将、センチネルプライムだ。
何あの一気コール。
若い初級隊員が次々に沈没していっている。
かわいそうに、止めたら自分が標的になるから何もしないけど。
また一人、センチネルからの一気飲み要求に屈した隊員が、酒に飲まれて落ちて行った。

「クリフは可愛いなぁ、ね、もっと喋って」
「ちょ、ちょっちょーかん、くっつかないで…!」
「私のこと、嫌いなのかい…?」
「なっなっ、そそそんなこと、あるわけないじゃないですかぁ!」
「良かったぁ、あ、グラスが空だね、入れてあげる」

センチネルプライムの方を見ていたら、後ろでもっと悲惨な状況が生まれていたことに気付かなかった。
その原因はエリートガード情報部長官ロングアームプライムと、俺が密かに気になっている情報部受付嬢、クリフジャンパーだ。
ロングアームプライムは酒に弱いもののこういう集まりが嫌いではないらしく、酒を少量煽っては酔って、クリフジャンパーに枝垂れかかっている。

男性体なのに女性的なロングアームは、正直色っぽい。
その細長く頼りなさげな指で腕を掴まれてしまったら、簡単に解くことなど出来そうにない程の色気を持っている。
憐れ今回の生贄はクリフジャンパーのようだ。
色恋沙汰に疎いクリフは、酔いも合わさって顔が真っ赤になっている。
ただ、そんなに嫌ではないらしい。
俺が同じことをしたら顔面が変わるほど殴られているだろう。
直属の上司だということを抜きにしても、今の状況に嫌悪を抱かないのだ。
つまりそれは、長官とならそういうことになっても良いと、心のどこかで思っていた証拠だ。

ロングアームはその整った顔をクリフに近づけ、密やかに何事かを囁いている。
クリフはそれだけで、溶けた表情をしていた。
…羨ましい。

「ねぇクリフ」
「は、はひ」
「抜け出さないか?」
「へぁ!?」
「もっとクリフと一緒に居たいんだ…二人きりで」
「で、でもぉ…」
「だめかな?」

ロングアームのゆるく波打つ銀の長い髪が、顔と肩のラインを彩り、しどけない色香を強調する。
大きな水色の瞳は煌めいて、クリフジャンパーを妖しく誘った。
少し赤く染まった頬、アルコールの匂い、体から漂う甘やかな香り、絡みつく腕、伸ばされる脚、濡れて光る唇。
妖艶とは、このことだ。

「だ、め…じゃない、れす…」

そう返すが、精一杯だった。

「では、行こうか」

顔が離れ切る前に、耳に掠った唇の感触が、やけに背をざわつかせた。
もしかしたら俺は、大変なことになるかもしれない。
でも、この人になら、いいかもしれない。
ロングアームに手を引かれながら、クリフはそう思っていた。

「…やられた」

ぐでんぐでんに酔っぱらった後輩の介抱をしていたら、いつの間にかロングアームとクリフジャンパーは消えていた。
残されていたのは、大量の釣りが出そうな額の現金だけ。
周りは未だドンチャン騒ぎを続けているため、二人が消えたことに気付いてもいない。
あの見目ほど純情ではないロングアームのことだ、このままクリフを美味しく頂くつもりだろう。
全く、あれは本物の魔性なのに、なぜ誰も気付かないのか。
いや、本物だからこそ、皆騙され、弄ばれるのだろう。
なまじ仕事は本当に出来るだけに、性質が悪い。
あれを嫌う者より、慕う者が多い事実が現実なのだ。
そしてクリフは、あれを慕う方だっただけの話。

「俺が最初に食いたかったのになぁ」

ぼやいたところで、後の祭だ。
酒宴の喧騒の中、ただクリフを想う。




-------------



ぼんやりとした明かりと、ぼんやりとした思考。
酒の酔いは取れそうもない。
シーツの冷たさが心地良い。

「クリフ、大丈夫か?」

ひょこ、とロングアーム長官が視界に入ってきた。
相変わらず美しい人だ。
そして可愛い。
ピンク色のぽってりとした唇なんて、高級な果実に思える。

「ふふ、嬉しいことを言ってくれる。私も、クリフの意志の強い瞳や、威勢の良い口は素敵だと思っているよ」

ロングアーム長官が、俺を褒めている。
これは夢か?

「夢じゃないさ。ここは二人で入ったホテルだ、君があまりにもフラフラとしているから。でも、そういう姿も可愛らしかったよ」

くすりと笑うロングアーム長官は、やっぱり可愛かった。
この人が時折零す少女のような笑みが、俺は好きだった。

「おや、クリフはタラシなんだね。これは意外だ」

からかわないでください、長官。

「ふふ、ごめんなさい、クリフジャンパー。キスしてあげるから、許して?」

へぇ、キス。
……キス!?

「はぁ!?」
「やんっ」

尻もちをつくロングアーム長官がそこに居た。
普段の服装からは窺い知れなかった、細い手足がそこにある。
真っ白で、頼りない、女みたいな手足が。

「ひどいぞ、クリフ」
「っ、あ、す、すみませ…」

俺が急に起き上がったことにより、ロングアーム長官を突き飛ばしてしまったらしい。
気付けばいつもの軍服の上着はなくなり、ワイシャツとスラックスだけになっていた。
上着と靴どこ行った。
ロングアーム長官はもっと薄着になっており、キャミソールとロングスカートからは素手と素足が覗いている。
こんなにも無防備な長官は、初めて見た。

「な、なんで脱がしたんですか!?」
「暑そうだったから。嫌だったかな?」

首を傾げ、胸の前で手を握り、両足をW字に広げて座るロングアーム長官は、ぶっちゃっけあざとかったが、それ以上に可愛かった。
これは言うことを聞くしかない。

「…嫌じゃないです」
「それは良かった」

にっこりと笑いながら、俺ににじり寄る長官。
白い肌に映える紫のキャミソールが、目に毒だった。
長官は俺の真隣りに落ち着くと、また、覗き込んでくる。
俺よりも背の高いくせして、なんでこんなあざとい仕草が様になるんだろう。

「二人きり、だな」
「…そうですね」
「ねぇ、クリフ」
「…何ですか」
「君は、私を抱きたくはない?」
「はぁ!?」

クイーンサイズのベッドから、転がり落ちるかと思った。
ロングアームは、くすくすと笑っている。

「いやいや…、はぁ!?」
「ふふふ、威勢の良いこと」

じり、じりと、詰まる距離。
あと一つ下がれば、ベッドから落ちてしまう、そんな間の詰め方。
ああ、キャミソールから谷間が見える。
小さいけれど確かに有って、顔の火照りを止められない。

「私のこと、嫌いなのか」
「いや、そんなことは…!」
「私は、そんなに魅力がないのかなぁ…」
「ちがう! あ…い、今のは、」
「嬉しい」

俺の好きな、少女みたいに笑う長官が、そこに居た。
儚くも、花が咲くように綻ぶ、その顔。
ずるい、ずるい、逃げ道がどんどん塞がれていく。

「クリフ」

熱の篭った声。
体の奥にまで染みついていく、恐ろしい声。

「だ、めです…ロングアーム、だめ、」
「嘘吐き」

あ、一息つく間もなく押し倒され、視界はロングアーム長官でいっぱいだ。

「私のことを、欲しているくせに。クリフの嘘吐きさん」

せめてもの抵抗として口を堅く閉じれば、艶やかな唇は、また耳を掠めていった。
首筋にぞわりと走る、気持ち良いナニか。
細い嫋やかな指で、つつつとなぞり上げられる輪郭。
背を走る衝撃。
呼吸がし辛くなって、思わず口が、開いてしまった。

すかさず、侵入してきた舌。
俺の舌を絡め取り、吸い上げ、離そうとしない。
硬口蓋をなぞられた時、思わず上げそうになった声に、ロングアーム長官の口の端がにやとするのを見てしまい、羞恥心が込み上げる。
それでもロングアーム長官の舌は、別の生き物みたいに口腔を動き回る。
逃げを打とうにも、気持ち良くて動くのが億劫になる。
じゅっ、という吸う音も、ぴちゃぴちゃと絶え間なく鳴る水音も、ふ、む、ちゅ、と鼻にかかったロングアーム長官の声も、性的で、俺は脳が溶ける感覚を味わう羽目になった。

息苦しさが限界に達した時、ようやく離れる唇。
銀糸が引いて、ふつりと切れる。
ロングアーム長官はふわりと笑って、ああ。

「おいで」

食べ、たい。




気付いたら、裸のロングアーム長官が隣で寝ていた。
真っ白な肌に散らばる、赤い痕。
…俺か、原因。

寝起きの頭で昨夜のあれこれを思い出す。
ロングアームは細っこい手足を俺に絡みつかせて、何度も煽ってきた。
掠れ気味の声で名を呼ばれると、どうしようもなく興奮した。
今もちらっとだけ見えている小さな胸は、感度も良くて少し触っただけで上がる声が楽しかった。
それに乳房を好きに弄るのは初めてで、戸惑う俺をリードしてくれるロングアームの手馴れた感じには嫉妬したものだ。
股座に鎮座するものは…うん…ちょっと衝撃だったけど。
だってロングアームの見た目は女性な訳だし。
本人は「だって取っちゃうと勿体ないだろう?」と言っていたが。
何が勿体ないのかは分からなかった。
萎えかける俺を心配してか、最初は後ろから…あ、駄目だ。
反応してきた。
ト、トイレ…!

「クリフってばお盛んだなぁ」

ぎゃあ。

「ロロロロ、ロングアーム…! いつから起きて」
「百面相を始めたあたりからさ。おはよう」

シーツをはらりと落としながら起き上るロングアームの、映画のような決まりっぷりと言ったら!
何なんだよこの人、モデルかよ。

「おは、ようございます」
「ふふ、偉い偉い。挨拶は大事だもんな」
「頭を撫でないでください!」
「そんな生意気言うと、」

あ、デジャブ。

「襲っちゃうぞ?」

もうどうにでもなーれ。
視界は昨夜と同じく、ロングアームしかない。
違うのは、その胸に咲き誇る赤い痕。
俺が彼を征服した証だった。

あとがき 2013/05/31
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