それは壊れた音階だった。ばらばらに散らばっていた、そこかしこに転がるものたち。ラベルを無造作に貼り付けた記憶のようだ。ラベルは俺としては珍しく、手書きでしたためてあった。まるで心底大切な物であるかのように。

 絃から放たれた音符のように、それは一つの響きを持っていた。はらはらと落ちて、広がって、俺のスパークを浸食する。旋律の如く優美な感触。柔らかく、暖かく、けれど激しさを持っていた。こんなもの、俺は知らない。こんなもの、俺の中には存在していなかった。

 混乱を極めつつあるが、何故か不快感はなかった。むしろ心地よいものだった。あの水色の機体を見ると、俺のスパークは複雑な音階を奏で始める。ラベルが貼られた記憶の一つ一つに、あの水色の機体が居る。無邪気に笑う姿も、兄弟の不始末に怒る姿も、俺の隣に居る時だけに見せる照れた姿も、全てが、優美な旋律の後押しをする。

 壊れた音階が、優美な旋律が、ばらばらの音符が、俺に襲い掛かる。認めてしまえ、と。ああ、もう分かっているのだ。ただ、表す言葉を知らなかっただけで。俺があの美しい羽を持った水色の機体に抱く感情の、その名を。

 張り巡らした情報網に、一つの言葉が引っかかる。手繰り寄せたそれは、感情に付いた名前だった。この星の言葉で、愛と呼ばれるのだそうだ。ならばこの感情は、愛の歌なのだろうか。

 サウンドシステムにだけ聞こえる、ジェットロンには聞こえない、愛の歌。

2013/02/23
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