溢れる音の渦。極採色の中にたわむ波に、溺れた。流れる音符のテールランプに手を添えて、ビートの端を蹴り上げる。ここは最早、ジャズの支配するダンスフロアなのだ。縦横無尽に暴れまわる音に、絶えることのない喝采を送りながら、彼は踊る。そこには彼のスパークと、それを高鳴らせる音楽しかない。

 ミュージックはジャズを高みへと押し上げる。彼はそれに応え、全身で踊っていた。手を伸ばして、足を振り回して、跳んで、跳ねて。ベースが唸り、ギターが掻き鳴らされれば、ドラムがビートを刻んだ。ヴォーカルの声は一つの楽器となり、ジャズのスパークと呼応する。彼のステージを邪魔する者は、誰も居ない。彼は己の為のステージで、己の為に踊っていた。観る者全てを魅了する美しさも、躍動感も、全ては彼自身の為にある。

 今、ジャズを支配するのは陶酔だ。音の渦への、音の波への、旋律と歌が作り上げる無限の空間への。そこには無駄なものなど一つもない。呼吸の一欠けらさえ、彼とミュージックを繋ぐ重要な鍵だ。終わりなど見えそうにない世界。極彩色の、様々に変化する世界の中で、ジャズの銀の機体は目が眩むほどの輝きを見せていた。それはジャズのスパークの輝きであり、彼の銀の装甲の輝きでもあった。差し色のような淡い青が、銀の煌めきをより際立たせている。

 綺麗だ。単純に、オプティマスはそう思った。音楽の渦に踊るジャズの姿は、どんな高価な鉱物よりも、どんな高貴な美姫よりもオプティマスの心を揺さぶる。美しいと、素直に思える。その姿を見ていたいと思う反面、自分がジャズの眼中に入ってすらいないことを、悔しくも思う。彼の意識を取り戻したい。そしてそれに対する有効な手段を、オプティマスは持っている。

「ジャズ」

 ただ一言、名を呼ぶだけだ。

 ぴたり、とジャズの時が止まる。音楽の渦は急速に霧散し、波は凪に戻る。ダンスフロアはスポットライトをおろして、ジャズの唯一人を照らし出した。どれほど胸を高鳴らせるビートを持ってしても、どれほど音のテールライトを追いかけても辿り着けない場所に居る、ジャズが己のスパークを捧げた相手。

「オプティマス!」

 ただ名を呼ぶ。それだけで、ジャズはトランスの高みから最愛のオプティマスの元へ、帰還するのだ。



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タイトルは実写ジャズのイメージ曲からとりました
2013/02/22
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