ぎちぎちぎちっと心臓をわしづかみにされているように胸が苦しい。息苦しい。こんなの初めての経験で、どうしたらいいのか分からない。 寝返りを打つと、また心臓が軋んだ気がした。 引き裂かれたコットン・キャンディー 異常に気付いたのは、4月も後半に入り新しいクラスにも慣れた頃。ふとしたときに、喪失感を覚えるようになった。何も失くしてはいないはずなのにどうしたのだろう、と疑問に思いはしたものの放置していると、次に訪れたのは焦燥感。 原因が分からないまま苦しい日々は続き、それと比例するように眠りが浅くなっていった。 「あの、部室に用事があるのを思い出したので、」 お昼は一緒に食べれないと伝えると、千鶴くんはとても残念そうな顔をした。 「え〜、残念。あ、オレ部室まで付いて行こっか!?」 「千鶴、お腹すいたから早く屋上行こ」 「ゆっきー、なんて冷たいのっ!」 祐希くんが千鶴くんを先に進むよう促す。そして、すれ違いざま 「春、大丈夫?」 ふいに整った顔が近づいて、問いかけられる言葉。 「大丈夫、ですよ」 うまく笑えていたか自信はない。きっと、祐希くんはボクが嘘をついたと気づいている。 部室に用事なんてなかったけれど、嘘をついた手前教室にいるわけにはいかなくて茶道室を目指す。 最近は寝不足のせいかあまり食欲もない。呆けていることが多いからか、皆と一緒にいると必ず一度は心配される。それに、わけのわからない胸の痛みは一人でいるときよりも悠太くんたちといるときのほうがひどくなるのだ。 ちりっと小さく痛んだ胸元に手を添えて、廊下の角を曲ったとき。 (あ、) 目に入ってきたのは、悠太くんと女の子。 緩めに編まれた髪がとても似合うその子は、悠太くんに手紙のようなものを渡していた。 告白の場面に遭遇してしまったのだと気づいたのと同時に、周りの音が何もかも聞こえなくなるほどの心臓の鼓動。 後退りして踵を返す間にも音はますます大きくなり、これまで悩まされてきた喪失感や焦燥感が混じり合って頭の中を渦巻き始めた。 走って走って教室まで戻ってきて、それからのことはあまり覚えていない。 ホームルームが終わるなり、千鶴くんたちの顔を見ることもなく学校を飛び出して、ただいまも言わずに自室にこもる。 気づいてしまったのだ、自覚してしまった。悠太くんを好きなことに。 喪失感は、クラス替えで悠太くんと離れてしまったから。焦燥感は、悠太くんと話す機会が減ってしまったから。理由は分かってしまえば易しすぎて、笑ってしまいそうだ。 ごとん、と凭れていたドアに頭を預けた後、膝に顔を埋める。 全てを理解したところで、どうすればいいのだろう。恋なんて初めて。それも同性相手に。報われるなんてことはあり得ない。さらに言えば、幼稚園から築いてきた友情が壊れる可能性のほうが高い。 握りしめた服の下で、また胸が軋んだ音がした。 2011.09.18. |