※伊庭視点。大学卒業後辺りの話。 |
今日は歳さんの誕生日である。 プレゼントとして秘蔵の洋酒を持って向かった試衛館には、今回の主役と永倉さんと原田さんがいた。彼らもプレゼントを渡している最中のようだ。 ハッピーバースデイ!と声をかけ部屋に入った瞬間、俺の横を脱兎のごとく走り去って往く永倉さんと原田さんに目を丸くする。 呆れた顔で、よお、と手を上げる歳さんの真ん前には、声に出して読んだら噴き出してしまいそうなタイトルのAVが何本か置かれていた。あの二人からのプレゼントなのだろう。 「良いものもらってるじゃないですか」 そう言いながら、洋酒のボトルを歳さんに渡す。 「いるならやるよ。ったく、二人揃って妻子持ちのくせしてガキみてえなことしやがる」 ボトルを受け取った歳さんが悪態をつく。だけれどその顔は少し綻んでいて、誕生日を祝ってもらったことを素直に喜んでいるようだった。 本日32歳になった歳さんは、相変わらずの男前である。女にモテないはずはないのに未だ独身でいるのは、何か思うところがあるからなのか、それとも単に歳さんの気に入る女性が現れないからなのか。 そう悪趣味なことを考えていると、パタパタと軽い二つの足音がこの部屋に向かって近付いて来た。 カラリと開いた障子の向こう側で、総司と鉄クンがせーのっと口を開く。 「「土方さん、お誕生日おめでとうございます!」」 綺麗に重なった声の後で、大皿に載ったシャルロットケーキが差し出された。色とりどりのフルーツで溢れんばかりのそれには、可愛らしいリボンが巻かれている。 立ち上がりそれを受け取った歳さんが蕩けんばかりの笑顔を見せ、それにつられるかのように総司と鉄クンも微笑んだ。 「鉄くんと一緒に作ったんですよ」 総司の言葉に、照れる鉄クンに、歳さんの瞳が少しだけ潤んだ気がする。俺の見間違いかもしれないけれど。 歳さんが幸せそうで良かった。置いて往かざるをえなかった総司と、五稜郭で別れた鉄クンに、色々と思うところがあるのだろう。 できれば彼にとっての幸せが、いつまでも続きますように。このまま時が止まれとまでは言わないけれど、この穏やかな、歳さんと総司と鉄クンがずっと笑顔でいられるような、そんな日々で一年が満たされますように。 少しばかり感傷にひたっていた俺に、歳さんが声をかける。 「ほら、伊庭。お前も一緒に食べるだろ?」 こちらを向いた三人の笑顔を忘れまいと一度だけ強く瞬いて、はい、食べます、と返した声は僅かに弾んでいた。 |